第5章 『黒百合の罪 ー 光の闇』
鼻が溶けそうな匂いが、
地面から絶え間なく立ち上っている。
まるで、生ゴミが息をしているかのような世界。
「…こんなにも生き物は愚かなんだね」
愛おしいはずの子どもたち。
けれど、この世界の大人は、
そんな子どもをなんとも思っていない。
――私欲のために生きてるんだと知った。
薄汚れた体、虚ろな目。
その目でテミを見上げる子ども。
そんな子に、テミは優しく手を伸ばす。
テミの慈悲深さに、胸の奥から水が零れた。
「テミ…決めたよ。
ミミは子どもたちに光を与えたい」
零れた水がキラリと光る。
「どんな形でもいい。
罪のない子どもたちには幸せになって欲しい」
それから自分たちは、
スラム街や孤児院を巡り
少しでも子どもたちが明るくなれるよう
援助をした。
希望の光が、
少しずつ満ちていくのを感じながら。
そんなある日、
薄暗い森の奥に小さな孤児院を見つけた。
そこは今までの孤児院とは、何かが違った。
白バラが赤く染まるような香りに、
薬品と錆の匂いが混ざって漂っていた。
それだけじゃなく、
空気は重く無数の子どもの手が
伸びてくる感覚があった。
「…ここは異様ですね」
「…うん」
中へ入ると、肌がピリついた。
耳をしまいたくなるような
子どもの泣き叫ぶ声に、
孤児院には似つかない機械音。
一体なにが起きてるの?
「看守がいると思います」
その言葉に、拳が揺れる。
テミが怒ってるのも感じた。
普段は穏やかな光を放つテミが、
今は真っ赤に染まっていた。
近づくほどに、
泣き声と恨みの想いが体に絡みつき、
まるで地獄を歩いているかのようだった。
勢いよく扉を開けると、
台に縛られた子どもたちと、
機械で腹を裂く大人がいた。
「……お前たちは誰だ!?」
「誰だじゃないだろ!!!!」
今までの怒りとは違った。
あれは慈悲に近いものだった。
だが、これは違う。
「罪のない子どもたちを使って、
お前たちはなにをしている!?」
「お前には関係ないだろ」
あまりにも無責任な返答。
怒りで胸が張り裂けそうになる。
それでも、テミは冷静だった。
「あなたたちの行いは、光を穢すことですよ」
『天使族』ということに、一瞬たじろぐ看守。
「あなたたち、
自ら行っている訳ではないですよね?」
テミのその言葉を聞いて、
魔力を使うことにした。
「嘘はダメだからね?」
――のんらいばにーに。
甘く優しい香りで相手の嘘を溶かしてしまう、
真実を引き出す魔法と霊力の併合。
さあ。本当のことを話しなさい。
「これは誰の差し金ですか?」
「ぅ…あ…セリオス=アトリオンだ…」
「人体実験は子どもだけ?」
「ああ…」
「何のためにしているのですか?」
「ル…『ルナ』の選出のため」
空気が揺れる。
ルナって?ルナのこと??
戸惑っていると、テミがそっと口を開いた。
「…昔聞いたことがあります。
私欲のために地界へ行き、
鍵を探している者がいると。
その鍵の名は『ルナ』」
「で、でも、
その『ルナ』とミミたちが知ってるルナは
別じゃ…」
テミの心が揺れてるのがわかった。
「ここに昔、魚人の混血の子と
もう一人女の子がいましたか…?」
その言葉を聞いてハッとする。
ルナとノクタの過去の話を思い出す。
――人体実験。
「まさか…!?」
「ああ。いた。
あいつらには酷い目にあわされ…」
この時、初めて本気で怒るテミを見た。
看守が瞬きひとつする前に、
額に十字架を押し付けていた。
「答えなさい。
セリオス=アトリオンとは誰なんですか?」
看守の額に冷や汗が滲み、
息が浅くなっているのを感じた。
でも、ミミの特別な魔法に口が動く。
「ル…ルナ=アトリオンの父。
ここから脱走したピンクの髪の娘の父親だ」
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