第4章 『カモミールの想い ー 月の真実』
薬指にしている指輪を、
お母さんは優しく撫でる。
痩せ細った指から零れ落ちそうだけど、
大事にしていたのがわかった。
ふと、窓辺にある白い花が目に入った。
「あの花…」
「カモミールよ…あなたも好き?」
おじいちゃん…
ノクタの師匠にあげた花と同じだ。
「やっぱ、親子ね…」
弱々しくも優しく微笑む。
「……それからあなたが産まれたわ。
髪の色、目の色は
私にそっくりで可愛かったわ」
――――――
「この子の名前は『ルナ』にしませんか?」
彼は、小さな頭を撫でながら言った。
「ルナ…ですか?」
「ええ。月という意味みたいですよ」
私たちの出会いが月明かりを通してだったので、
そこまで深く考えず決めてしまった。
――けれど、その本当の意味を知ったのは
ルナが3歳になる頃だった。
その晩、珍しく寝付きが
悪く私たちは散歩をしていた。
「星が綺麗ね…」
「ママ、みて!おききさま!」
空には、下弦の月が煌めいていた。
その月明かりの下に、彼がいることに気付いた。
声をかけようかと思ったが、
誰かと話をしている様子で
私はそっと耳を澄ませた。
「ええ。『ルナ』は手に入りましたので、
あとは時を待ち国を作り上げましょう」
『ルナ』ってこの子のこと?
その後も、話を聞いてると彼は私たちを利用し、
自分の国を作ろうと計画しているのがわかった。
――――――
「…『ルナ』の本当の意味は、
儀式の鍵の『月』」
部屋の中で、風が渦巻く。
「そして、王族エルフとインキュバスの
『混血』を求められて、
私たちは利用されていたの」
世界が、ぐらっと歪む感覚に襲われた。
アタシが儀式の鍵――?
そして、ノクタと付けた呼び名が
その鍵を意味する『月』?
その上、『混血』を産まわせた?
「私は、あなたに本当の名を付け
逃がすことを決めたわ」
お母さんの目から涙が零れる。
「あなたの本当の名は、
『マティルダ・ガイアローン』」
その名前を聞いて、
アタシを追い出した時のことを思い出した。
――そうだ。お母さんは…
「マティルダ、彼は必ずあなたを見つけ殺すわ
…だから、逃げて」
「で、でも…お母さんは!?」
「…死ぬ前に、
あなたにまた会えて良かったわ。」
死ぬってなんで……?
アタシはお母さんを抱きしめた。
「やだ!なんで!?」
「ごめんね。でも、仕方ないの…
愛してるよ、マティルダ」
お母さんは、アタシの頬を撫で光に包まれた――
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