第4章 『カモミールの想い ー 夜の道』


「お、異人さん達じゃないか。

それも皆可愛いね」



お酒を飲んでると、

知らないおじさんが混じってきた。



「それに魚人のお姉ちゃんの耳綺麗だねぇ」



ノクタのエラを見てそう言うおじさん。



「え!?おじさん、

ノクタのこと女の子だってよく分かったね!」



ミミ、失礼すぎ…



「そりゃあ、わかるよ。

逆にわからねぇ男はクズだな」



この世にクズいっぱいじゃん。



「それより、お嬢ちゃん。

その顔どこかで見たことあるような…」



おじさんはノクタの顔をまじまじと見る。

ノクタの顔は強ばってるようだった。



「あー!そうだ、ストルムさんのとこだ!」



グラスのお酒が揺れ、

空気が重くなるのを感じた。



「最近、調子悪いみたいなんだよ…

良かったら、明日顔出してやったらどうだ?」



そう言っておじさんは、別の席へ移動した。

嵐のような人だな…



「……ノクタ、どうしますか?」


「……」


「まあ、試しに会ってみたらいいんじゃない?」



ミミが言うほど、

そんな簡単なことではないのは分かってる。


けれど、なにかノクタにとって

良いことがあれば

会ってみる価値もアタシはあると思った。



「ひとりで不安ならアタシ達も一緒に行くよ」



さっき、アタシにしてくれたように、

アタシもノクタの手を握る。



「……わかった」



 

――――――


 


翌日、お見舞いの花を抱え

『ストルム』という人に会いに行った。


家に入ると、その人の身体は痩せこけ

とても辛そうに見えた。



「誰だ…」


「昨日、

酒場でオレの顔に似てる人がいると聞いて」



ストルムさんはノクタの顔をじっと見つめ、

何かを思い出したかのように目を見開いていた。



「お前…あいつの子だな」


「…オレの親を知ってるのか」


「知ってもなにも俺の兄がお前の父親だ」



可愛いピンクの花びらが、

ひらひらと床へ落ちる。



「それにそのエラ、

あいつが駆け落ちした女の子とそっくりだ…」



駆け落ち…

その言葉に、アタシの胸も締め付けられる。



「あいつらは金がないのにも関わらず、

この町から出て子を持った。

それだけなら良かったが…」



ストルムさんの呼吸が一瞬深くなる。



「金に困ったあいつらは、

俺らの金を盗み、挙句お前を売った」



体が震えるノクタの拳から血の香りがした。



「……人体実験をしていると知っておきながら、

あいつらは私欲のために。

だが、お前は生きていたんだな…良かった」



ノクタはなにも言わず、

そっとストルムさんへ花束を渡した。



「あいつらが生きているかどうかもわからない…

ただ、お前だけは幸せに生きて欲しい……」


「…ああ」



そう言ったノクタの背中は、

涙で溢れているようだった――


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る