第41話 ロブスト家との交渉 前編
ロブスト家。
昔から王家に仕えている魔術の名門の一つだ。
忠誠心が厚く義理堅いが近年は王家への関りが薄い。
当主が変わり者というのもあるし、何より王が大臣に内政を任せきりというので信頼を失っているから……というのが主な理由らしい。
「当主は気難しい方なんですか?」
「そうですね、頑固で一度決めた意見を覆したりはしないそうね」
「ええ……それ大丈夫なんですか?」
馬車が街道を走る中、これから行く家の当主について教えてくれた。
ただ、聞く限りだとそう簡単に首を縦に振らなそうなんだけど。
「今の王には不満を抱いているらしいけど私に対してはそうでもないと思います。私が15になった時は祝辞を送ってくれましたので。兄には何も送らなかった位ですし」
「嫌われてはいないんですね」
メイシュの兄には送らないとか露骨だなぁ……。
まあ、王もメイシュの兄も俺はそんなに知らないんだけど。
「砦が落ちる前に戻らなきゃいけないですね」
「ええ、急がなければいけません。私の読みでは砦から負傷者が来ていませんからまだ大丈夫だと思いますけどね」
「……ずっと気になってましたけど、砦から負傷者は無事に逃げてこれるんですか? 魔王軍に逃げ道も塞がれてるんじゃ……」
砦が落ちる位ならとっくに包囲されててもおかしくなさそうだけど。
「大丈夫です、私達がベルカの街に着いた時点ですでに包囲されていたようですけど、それでも連絡が取れていますので」
「それ大丈夫じゃないですよね!?」
駄目じゃん、よく今まで耐えてたな。
ていうか相手はあえて逃げ道を塞いでいないのか?
でも何でだ?
うーんと考えているとメイシュはぐっと手を握り拳を作る。
「時間が稼げているならそれを無駄にするわけにはいきません、出来る事をしましょう」
その顔は相変わらずの無表情だが、若干目に気合が入っている気がしないでもない。
さっきの話を聞く限りメイシュってやっぱり優秀なんだろうな、今の王や兄達より。
俺と同じ年なのに凄いな。
じっと見つめるとメイシュは窓の外を見ながら本当に小さな声で呟いた。
「今の私凄くカッコよかった、きっとイクス様は私を見直したはず、貴族の説得は全く自信ないけどイクス様と馬車で二人きり……素敵、ロマンチック。このまま逃げてしまいたい」
「…………」
メイシュって意識的なのか無意識になのか分からないけど、時々凄い小さな声で本音喋るよね。
前にクノリが俺と仲良さそうに話していた時、本当に小さな声で泥棒猫め……って言ってたし。
「イクス様、頑張りましょう」
「そうですね」
とりあえず聞こえなかった振りをした。
ロブスト家に着くと早速当主に面会を求めた。
ロブスト家は地方の貴族だが、やはり力があるらしい。
俺の実家であるトットベル家と同じくらいの規模の屋敷と近隣に街を持っているようだ。
応接間で待たせてもらっているが、屋敷を歩いた感じだとメイドや執事も多くせかせか歩いている。
何となく懐かしさを感じた。
それからしばらくするとノック音が聞こえ、執事と共に当主が入ってきた。
「ようこそ、当家へ。私はベイシア・ロブスト。ロブスト家の当主をしてるわ」
優雅に礼をした。
「忙しい中お時間をいただきありがとうございます。メイゼ・シュバルツ・マーケン・フォードです、以前祝辞をいただきありがとうございます」
「良いのよ、あなたの評判は他のと比べて悪くなかったもの。祝辞位安いものよ。それに実際に見ると確かに光ってるしね」
メイシュも返礼にベイシアはにこりと笑った。
ていうかロブスト家の当主って女性だったんだ。
ベイシアは綺麗な女性だ。
口元は笑っているが、冷ややかな瞳で品定めするように俺らを見ている。
ちらっと後ろに立っている俺を見てからすぐにメイシュに視線を戻した。
「そちらが噂の親衛隊? 若いのね」
「若いですが腕も知識も相当なものですよ」
「そう……それは良いわね。若い才能は伸ばすべきですものね」
くく……と笑ってからベイシアが目を細めた。
「今回の来訪は以前話していた?」
「はい、ベルカの街への助力をお願いに来ました」
「王女様直接来るとはよっぽど状況は悪いみたいね。砦は落ちたの?」
「いえ、ですがもうすぐ落ちるかと」
「そう」
ベイシアは一度目を閉じてからゆっくりと開く。
「ベルカは私の領地ではないのは御存じよね?」
「はい」
「それにベルカは決して守りやすい町ではなかったはずだけど……当家の兵を出した所で守り切れるとは思えないんだけど」
「……ベルカの後ろ、草原に街を移動させました。周囲に壁を作り見張り台を立て、防御兵器も出来ています。運用する兵さえいれば十分守り切れます」
メイシュの言葉にベイシアはピクリと眉を動かした。
「メイゼ様がベルカに来たのは一月か二月前と聞いていたけど随分と動きが速いのね」
「優秀な親衛隊がいますから」
メイシュがちらっと俺を見た。
改めて聞いたら確かに最初の何もなかった頃に比べたら人さえいれば守り切れると思うし、説得できるだけの用意も出来ている。
兵を無駄死にするだけって事もないし、ネックなのは彼女の領地と関係ないっていう事か。
「重畳ね、判断材料としては悪くないわ。けど駄目ね」
「ど、どうしてですか?」
「私が動いたら王都に睨まれるもの。それに私が一度動かないと言ったら動かないの。勝算はありそうだからあなたたちで頑張って」
バッサリと斬られた。
それを言ったらこれまでのメイシュの説明は何の意味があったんだ。
いや、断る理由を探していただけか。
「ロブスト卿」
「ベイシアで良いわ」
「……ベイシア様、勝算は確かにありますがそれは援軍があってこそです」
メイシュは食い下がるがベイシアは首を縦に振ろうとしない。
やっぱり駄目なんだろうか。
様子を窺っていると、後ろで扉が開いた。
「失礼します、当主。高名なメイゼ様が来ていると聞きました、是非一度ご挨拶をと」
「良いわ、入りなさい。もっともすぐにお帰りになると思うけどね」
入ってきた人物を見て俺は目を見張った。
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