第40話 新ベルカの街には鬼がいる
「マルク様、砦はあと少しで落ちそうです」
「そうか」
木に身体を預けながらうたた寝をしていたマルクは起き上がった。
二メートルを超える身体は人型だ。
黒髪に黒目、鍛え抜かれた身体は凄まじく洗練されている。
頭には二対の角が生え、背中には漆黒の羽が生える。
このエリアを任されている魔王軍の幹部の一人だ。
「状況は?」
「はい、敵は大分弱っていますが、砦に籠る奴らの抵抗が激しく……」
「逃げ道はどうなっている」
「はい、指示通り後方に一つだけ作ってあります」
「よし」
部下の言葉にマルクは笑みを浮かべた。
砦の負傷者をあえて後方の街へ逃がす。
それにより街の奴らは、動きの遅い負傷者を守るためにそれ以上後ろには逃げない。
人の情という物を利用する作戦だ。
――ただその作戦を立案した奴が暫く姿を消している。
「それで、リックはまだ見つからないか?」
「申し訳ありません、後方の街の地形を見に行くと話していましたが、その後帰ってきていません」
「あの虎野郎、どこで遊んでいる」
もしかして死んだか? いや、ああ見えてあいつは魔術耐性も高いしその辺の奴には負けないと思うが……。
餌を前にすると油断する悪い癖でも出たか?
「ふん、そのまま押し続けろ」
「はは」
そのうち帰ってくるだろう。
☆☆☆
「出来た……」
果実を混ぜた結果、相当飲みやすくなったと思う。
効果は変わっていないとは思うが……これも一度試したいところだね。
沢山小瓶は用意したから入れていこう。
果実を混ぜたり水を混ぜたりしたから大分量が出来たね。
良い感じだ。
――と、二双弓の様子も見に行かないといけないな。
俺は外への扉を静かに開き、様子を見る。
「声は聞こえてこないね」
続けて周囲を警戒しながら工作室へ急ぐ。
そこまでの距離は走って動いた。
ここまで警戒するのには理由がある。
数日前から俺は狙われているのだ。
俺をぶち殺すとか言いながら槍を持って歩きまわっている危険人物がいるのだ。
俺の部屋までは入ってこないが、扉は叩かれた。居留守を決め込んだけど……気を付けなければならない。
食べ物の恨みは怖いと聞くがまさか本当に命を狙われるとは……。
ともかく、工作室に向かうとアーサーが目の下にクマを作りながら調整していた。
「どう、出来てる?」
「ん? ああ、一応な」
見れば俺のイメージ通りの物が出来ていた。
「調整具合は?」
「問題ない、関節部分に油を塗って滑るようにしたが、ちょっとこの油の質が悪いせいか、動きに違和感があるかもな」
「とりあえずは動くならいいよ、じゃあ早速設置しに行こうか」
壁に二双弓を設置し、ついでに動作確認を行った。
結果としては前より威力は下がったが複数の敵を処理しやすくなった。
成功である。
ついでに疲労が大分溜まっているアーサーにポーションを飲ませてみた。
変わった味だが結構美味いと言いながらぐびぐび飲んでいた。
じっと観察していたが、苦みを感じる事もなく、疲労も回復したようだ。
恐らくこちらも成功だ。
意気揚々と研究室に戻ると道の途中で鬼に出くわした。
疲れた表情を浮かべながらも俺の身体に穴をあけようと槍を振りかざしてきたが、賢しい俺は美味しくなったポーションの入った小瓶をいくつかあげた。
鬼……もといクノリはそれを訝し気に見ていたが、本当に美味しいからと説得して一つ飲んで貰ったらすぐに笑顔を取り戻して自分の仕事に戻っていった。
言っちゃあれだけど、チョロいね。
次の日、二つ課題を終わらせたから少々気楽になりながら会議室に向かうと、重苦しい雰囲気の中、メイシュとルキが地図を見ながら話していた。
「えっと……どうしました?」
「イクス様。いえ。援軍についての話をしていました」
そういえば近隣の貴族に協力を求めてるみたいな事話してたっけ。
「上手くいっていないのですか?」
「そうですね、どこも非協力的です」
「ロブスト家は動いてくれると思ったのですが……王都からの息が掛かっているようでなかなか返事が返ってきません」
こんな時まで足引っ張りか、くだらないね。
「メイゼ様、どうしましょうか?」
ルキが心配そうに見つめる中、メイシュが立ち上がった。
「ルキ、出かける準備をしてください」
「え、それは良いですが……まさかメイゼ様が直接向かうつもりですか?」
「他が駄目でもロブスト家だけでも動いてくれたらここは守り切れると思います。ならば直接出向くしか他にないでしょう。最も私が行ったところで動くかは分かりませんが」
「ですが砦がいつ落ちるか……」
ルキが微妙な表情を浮かべる中、メイシュは手を口元に当ててから、頷いた。
「ルキ、あなたはここに残りなさい。もし砦が落ちたら焦らず私たちが戻ってくるまで耐えてください」
「それは良いですが、メイゼ様一人で行くのは危険です!」
「いえ、私は一人では行きません」
メイシュが俺をじっと見る。
「イクス様、どうか私と共に来てください」
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