第42話 ロブスト家との交渉 後編



「初めまして、アーウィン・ロブストと申します」


「メイゼ・シュバルツ・マーケン・フォードです」


「メイゼ王女、御高名はかねがね。それで……ん?」



 アーウィンの視線が俺に向いた。


 やはりこの名前聞いたことがある。



「君はまさか……」


「どうしたの? そこの王女の親衛隊とやらはあなたの知り合いかしら?」



 ずかずか近づいてきて俺の両手をぎゅっと握った。



「あなたはイクス! イクス・トットベル殿ですね!」


「は、はい。どうも」



 ぱああと光を見たかの様に明るい表情で笑って話しかけてきた。



「トットベル? もしかしてトットベル家の?」


「はい、彼はトットベル家三男のイクス・トットベル殿です」


「トットベル家の三男ねぇ、確か相当評判が悪いけど、これが?」



 冷ややかな目で見られた。


 分かるよ、俺の外の評判凄く悪いもんね。


 でもそういう扱いには慣れてる。


 だがそれに激高したのはアーウィンだ。



「当主……いえ、母様! これとは無礼でしょう! 彼は私が重度の火傷を負い生死をさまよっていた時、必死に救護をしてくれ、あまつさえ貴重なハイポーションをくれたのです。アーウィン様が治るのでしたら安いものです……と!」


「そ、そうなの……」



 なんか、すげえ誇張されてる!


 俺そんな事言ってないよね、むしろそれ風邪薬だから飲まない方が良いとまで思ってたんだけど!?


 それにハイポーションは別に貴重じゃないし、あほ程生えてたルッコンと時間さえあればいくらでも作れるレベルだったし。



「認識が甘かったようね、私の息子の命を救ってくれてありがとう」


「いえ、出来る事をしたまでです」



 これしか言えなくない? 俺まで下手に嘘つきたくないし。


 ちらっと見ればメイシュがこちらを見ていて、眼が心なしかキラキラしてる気がする。


 流石イクス様とでも言いたげな目だ。


 やめて、アーウィンの言葉の半分は彼の妄想だから。



「でも今回の話は別の話だけどね」



 ベイシアの言葉にアーウィンが首を傾げた。



「そういえば彼らは一体何のためにここへ? 挨拶……という雰囲気でもなさそうですが」


「ええ、彼らは兵を借りに来たのよ」


「兵を? 当家の?」



 どうしてまた……という表情を浮かべている。



「ベルカの街が今魔王軍と戦っているのは知っているわね?」


「はい、私達の領地とそう遠くないですから」


「メイゼ様とその親衛隊はそこの守備を任されてるの。嫌がらせでしょうけどね、王都の大臣と仲が良くないようだから」



 ベイシアはくすくすと笑った。


 やっぱりなんだかんだ言ってメイシュと王宮の奴らの関係には詳しいようだ。



「なるほど、それで兵を……母様はどうお答えになるつもりですか?」


「出す気は無いわ。私にメリットはないし、何より私が一度出さないと言ったのよ。その決定に変更はないわ」



 アーウィンが来たからもしかして……と思ったがそんなことはなかった。


 やはり駄目なものは駄目らしい。


 アーウィンは少し考えてから頷いた。



「分かりました、母様。私に兵を与えてください。以前の恩を返すため、私が彼らの援軍となります」


「……何を言っているの?」


「受けた恩は返すのが我がロブスト家の家訓のはず、トットベル家とも親しいですし。私たちが助けない理由はありません」


「駄目に決まっているでしょう、もし兵を出して王都の者らに睨まれたらどうするつもりなの? 家訓なんてものはそれほど重要視するものではないわ。ただでさえあなたは大事な次期当主なのよ?」


「母様!」


「分かったわ、当家より援軍を送ります」



 折れた!



「よ、よろしいのですか?」


「ええ、当家は恩を返すのが家訓ですもの」



 あれ、さっきと言ってる事違くない?



「ですがアーウィンは当家の次期当主、しかるべき人材を代わりの指揮官として送ります」


「いえ、私が行きます。母様、お願いします」


「……えっと、指揮官は」


「アーウィンしかおりません、当家の兵を率いるのにアーウィンを除いているわけがありません。すぐに編成して兵を送り出しますわ」


「…………」



 この変わりよう……もしかしなくてもこの当主、息子の事溺愛してない?



「時間はかかりますか?」


「いえ、近隣のモンスター討伐に出るつもりでしたので出陣と兵の準備は出来ております。ただ、装備の変更がありますのでそれが終わり次第すぐに向かいます」


「ありがとうございます」



 それはちょうどよかった。


 ベイシアを見れば目を瞑り天を仰いでる。


 本当は行かせたくないんだろうなあ、実際次期当主っていうのも危険というのも事実だし。


 しょうがない、一応言っておくか。



「ベイシア様」


「……何か?」


「アーウィン様は私が命に代えても守ります。ご安心を」


「分かったわ、もしアーウィンに何かあったら、魔王軍の後にロブスト家がベルカの街に攻め込むのを覚えておきなさい」



 口元で笑いながらもじろっと見られた。



「ははは、母様もイクス殿も心配性ですね。むしろ私がイクス殿を命に代えても守りますよ。それにイクス殿も安心してください、母様はこう言ってますが当家がベルカを攻めるなんてありえないことですよ」



 アーウィンは陽気に笑ってるが多分この人本気で攻めてきそうなんだよなぁ……。


 メイシュだけじゃなくアーウィンの身体にも気を付けてあげよう。




 その後、砦からの負傷者が来る前にアーウィンが兵を率いてやってきた。


 精鋭揃いだそうだ、ルキは精鋭を引き出すとは流石メイゼ様……と言っていたが、多分彼らはアーウィンを死なせない為にベイシアが精鋭を選んだだけだと思う。


 もしアーウィンが死んだら彼らも敵になる、十分気を付けよう。



 そして二日後、砦から負傷者、そして生き残った者達がやってきた。

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