第3話 おじさま、スキルが生えて(?)くる


「……と、そんな感じなのでして」

「へぇ、正論を言ったらこちらの世界に追放。そりゃあ、ぼっけー超すごいな」


 近くのカフェに腰を下ろし、私は彼女に異世界へ来た経緯を語っていた。

 私はコーヒーを飲み、彼女はこちらの甘味である団子のような物大手饅頭を食べている。


「そういえば、あなたは"追放冒険者です"という紙をぶら下げてましたね」

「あーえーと、お恥ずかしいのだけど……」


 少女は恥ずかしそうに手を組み、口を隠す。


「進級試験が不合格で。代わりにクエストクリアしないと落第することになりまして」

「ふむ……」


「それが、中ダイトカイの天空城にある宝物庫に居着いた龍を追い出すという内容で」

「先程の話に通じるのですね、なるほど」


「同じ境遇の学友とパーティを組んだのですが、スキルが極端で使えないって任務前に首になりまして」

「それでこの私と、龍をなんとかすると?」


「……はい」

「……」


 私は、絶句した。


「ちょっと龍を追い出すだけだから」

「それはちょっと、とは言いません」

「えー、ちょっとだよ。倒す必要はないから」



「確認のためにお聞きしますが、追放の原因となったあなたのスキルとは、どんな物でしょう」


「ここの世界だと、生まれつき全員持っています。わたしはどんな魔法も超強力になるけどお腹がすごく空く『暴食浪漫砲ぼうしょくろまんほう』というスキルが自動発動していて──」


「無謀な事をするべきではありません。一度学園に戻り教授に相談すべきです」

「首になったパーティリーダーと同じ事言わないでください……」


 ショックを受けているようだ。


「あなたの能力は思った以上に扱いづらい。一発目で仕留めきれないと次の装填、つまり大量に食べるのにとても時間がかかる。コストがかかりすぎる」


 私は少女の前に積み上げられた皿を見てため息をついた。

 10人前くらいは団子を平らげただろう。


「そんな正論でぶっ叩かなくても……」

「それに、私はスキル五十路いそじの一般人。職業はヘルプデスクを統括する立場……でしたが。ともかく、戦うなんて無理があります」


 私は立ち上がろうとした。

 少女が、スーツの裾を握る。


「アタシって、いらない子なんでしょうか」

「何もそこまでは言っていません」


「落第したら故郷に帰らないといけないんです~。おじさんだけが頼りなんです~」


 引き剥がそうとしたが、どうしても離れてくれなかった。

 困りましたね……


「人助けだと思ってお願いしますぅ~」


 人助け、と言われると弱い。

 助けたいという欲が出てしまう。ヘルプデスクのサガなのだろう。


「……って、あれ?」


 少女は、私をじーっと見つめた。


「おじさん、スキル持ってるよ? あ、持っているのじゃない。今生えてきてる突然出てきた

「そのようなこと、わかるのですか?」


「うん。いわゆるステータスを見るスキルでおじさんを見ているのだけど、今説明文がどんどん追加されている」


 なんと!


「こんな感じになってるよ。読むね」


──────────

 スキル名:ヘルプデスク Lv.1

 <技>

 会話術:トラブルを聞き出す

 観察眼:トラブルを見極める

 再起動:対象が再起動する。同時にメモリ内容が一新される。

 OSリストア:リストアメディアを刺して再起動することで、対象は初期化される。   

 ※ 一度使用したメモリは再利用不可。

 工場修理:対象は修理工場(異世界には存在しない?)に持ち込まれる。

──────────


なんなんなんなのこれ。スキルが生えてくるって聞いたこともないし、そもそもこんなスキル書物にさえ載っていない。新たな発見かもしれないから、今度教授にレポートしておこう」


 もしかしたら、先程ドラゴンににかれかけた時に発生したのかもしれない。

 あの時、私の中で何かが弾けて……


「ですが、戦闘向きではなさそうですね」

「ものは使いようじゃ」


 それはそうですが……




 キャーッ!


 店の外から悲鳴が聞こえる。

 衛兵を呼んでくれと、誰かが叫ぶ声もした。

 何事なのだろうか。


(つづく)

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