第2話  おじさま、ドラゴンにひかれかける


危ねえっ危ないっ!」


 大声とともに、大きな力で空中に引っ張られる!

 危うくドラゴンの突進を回避した。


 足がかすかにドラゴンのツノに触れた。

 恐怖のせいだろうか、私の心で"何かがはじけた"。


 龍が通り過ぎた所で、道の端に降ろされた。


なにしょーる何してるの! 危うくぶつかるところじゃったがだったでしょう



「はい?」


 道の端っこで、お互い顔を見合わせた。


「あっ、ごめんなさい。アタシはおじいちゃん子で、つい古語をつかっちゃうんです」


 古語、ですか。


「さっきのあれは何だったのですか?」

「あれは子どもが乗って観光するものよ」


 ここでは子どもが龍に乗るのですか、さすが異世界。

 と言った所ですね。


「何にせよ助かりました。ありがとう」


 助けてくれた彼女を改めて見ると、紺色のセーラー服のような、ブレザーのような変わった格好をしていた。

 高校生の制服のようでもあるが、左襟付近から肩にかけて星が3つ付いていた。


「魔法学園の制服、珍しい? 東京の世界風で気に入ってるのだけど」


「──すいません、ついジロジロ見てしまって……気を悪くしたなら謝ります。私は、佐藤令成さとうれいせい。ここではない東京の世界から来たばかりです。全部珍しいので、つい凝視してしまいました」


そーなんじゃそうなんですか。おじさん外の世界から来たんかぁ、でーれーすごいな」


 でーれー。

 ガイドが出て内容がわかったが、また古語のようだ。


「アタシはミオ・イ=デイ。ダイトカイ魔法学園の1回生。さっきのは私の得意とする重さを操る魔法じゃ」


 彼女は見た感じ18歳位だろうか。155センチくらいの身長で、ややウェーブがかかってふわりとした髪が肩まである。そして目鼻立ちもやわらかそうな娘さんだ。


 彼女は無邪気な笑顔を見せた。

 私が初めて遭遇したダイトカイ人は、とても人が良さそうだ。


──ぐるるぅ

 少女のお腹が盛大に鳴った。


「あー、大量に魔力使っちゃったからお腹が空いてしまった」

「どういうことですか?」


「アタシ、生まれつきどんな魔術も超強力になるのだけど、代わりにすぐお腹が空いてしまうんよ」


 なるほど、チート級はそういうことですか。


 少女はポケットから何かのパッケージを取り出す。団子のようだ。

 もしやガイドブックに載っていたダイトカイ建国の英雄ももたろうのように、それを私に食べさせてお供にするつもり……


「はむっ、バクバク」


 少女は取り出した団子を自身で食べる。


「うーん、これじゃあ足りない」

「自分で……食べるのですか……」


 予想外だった。


「とりあえず、どこかゆっくり出来る所はないですか? お茶の一杯もお礼したいのですが」



 駅前にある大きな時計倉敷駅アンデルセン広場のからくり時計の鐘が鳴り、ちょうど一二時を告げる。



 音楽が奏でられ、からくりが物語の一場面を演じ始めた。

 踊り子の人形が円舞を舞い、すずの兵士が進む。


 きっと現世世界と同じ物語なのだろう。

 物語では踊り子は火にべられ、兵士は溶かされて……



「だったら、ちょっと中ダイトカイのタッカハシ高梁市にある天空の城備中松山城まで来てくれない?」


「ガイドブックでは半日かかるとなっていますが……どういうことでしょうか」


「アタシのクエストを手伝って欲しいんだ。ちょっと龍を追い出すだけだから」


「それは、ちょっとなのでしょうか?」


(つづく)

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