異世界「ダイトカイ」に追放されたおじさま、非戦闘スキル「ヘルプデスク」で銀龍と戦う

風波野ナオ

第1話 おじさま、異世界「ダイトカイ」へ追放される


「サトウ主任、君を追放。いや、出向とする」


 張子はりこ本部長の言葉で、間座亜まざあ株式会社の大会議室に緊張が走る。


「本社ITシステムの改善をご提案しただけですが、なぜそのような……」


 会議の出席者を見回すが、全員知らぬ顔を決め込んでいる。

 私の味方は……いそうにありませんね。


 ウイルス対策ソフトや機材の保守契約それに老朽化設備の入れ替え、全て皆無となった。

 もしセキュリティ不祥事を起こせば、会社の信頼は地に落ちる。それなのに。


「PCが勝手に修復する現代では、全て金の無駄。今や必要ありません」


 コンサルの金分かなわけが追い打ちをかけてくる。


「あなたはリーダーとはいえ、たかがヘルプデスクITサービス部門ごときが本部に意見など、身の程知らずもはなはだだしい」


 本部長が嘲笑あざわらうように言う。


「君の出向先は異世界『ダイトカイ』にあるペーパー会社だ。社員は君一人。事務所もない。本社は何もしない」


「ワタクシ金分の調べた所、そこには外敵から街を守るための用水路が張り巡らされているそうです。何でも毎年死人が出る人食い用水路とか」


「せいぜい喰われないようにすることだな。年商10億稼いだら帰任を考えていいぞ」


「ガハハハハハハハハハ……」

「グヘヘヘヘヘヘヘヘヘ……」


 会議室に張子と金分の笑い声が響く。

 つられて、会議に参加している面々も笑い始める。


 みな、気持ちの悪い顔をしていた。

 思わず、耳を塞ぎ、目を瞑った。


 いいでしょう。

 この仕打ち、覚えておきますよ。


 ◇◇◇


「すまない、私はまだここ東京本社でやることがある。君に付いて行く気はない」


「最初からわかってたわ。ここでお別れね」


 涼子は悲しげな顔をしていた。


「知らない土地なのに、本当に行くのですか?」


「人はどこでも生きていけるし、生きていればなんとかなる」


 席を立ち上がり、彼女はどこかへ歩いて行く。

 ふと立ち止まり、私にこう言った。


「これだけは覚えていて……」


 ◇◇◇


 硬い列車の座席で目を覚ました。五十路いそじには辛い旅で、腰が痛い。

 ……涼子の夢を見るのは何十年ぶりだろう。


「住めば都、か。私は何のために30年近く本社で戦ってきたのだろうか」


 その仕打ちが、どこともわからない異世界への追放。

 何としても、早く東京へ帰りたかった。


『あと15分で終点、ダイトカイ市駅……』


 すっかり目の覚めた私はガイドブック『異世界の歩き方』を読む。


 ──25年前、突如としていくつかの異世界と現世(我々の世界)が地続きになってしまった。そのうちの一つ、ダイトカイは現世の岡山県がある付近に開いた転移門から行き来出来る世界。そのせいか、どこかしら似ているそうなのだが……。


 列車の速度が落ちてきた。

 進行方向に明るい光が見えるが、それは転移門の出口だろう。


『終点、ダイトカイ駅……お忘れ物ないようにお降りください……』




 超次元鉄道の駅舎を出ると、中世ヨーロッパ風の町並みが広がっていた。


 腰をコキコキ鳴らしながらガイドブックを読み進めると、「解説をONにすると、わかりにくい事例が現実世界に例えてルビとして表示ガイドされます……」とある。


 スイッチはコインでこする形式だった。スクラッチ?

 まぁ構いません、使ってみましょう。


 視界にはこの世界の王族イバ・ラギ一族が住まうダイトカイ城岡山城への行き方が表示された。

 ……なるほど、これは分かりやすいですね。


 さて、私には今日の寝床すらありません。なんとかしないと。

 ガイドに従い、宿を確保するために城下町駅前商店街を歩きはじめると……


〈追放冒険者です〉


 そう書いた紙を首からぶら下げた少女が、道の端に置かれた段ボールに入って体育座りをしていた。


 私も追放の身、他人事ではない。

 そう思っていたら……目があってしまった。


〈チート級なスキル持ちでお役に立ちます〉


 彼女が紙を裏返すと、そう書かれてあった。

 チートやスキルはよくわからなかったが、彼女の雰囲気は普通ではない。


「あの、お嬢さん。どうされたのですか」

「──こっちへ来て。そこ、危ないから」


 彼女は右の方を指さした。

 その方向を向くと……


 私は見た。路面電車だ。しかも地を這うタイプお○でん◯ャギン◯ンの。


 尻尾で連結された赤い龍○ィル◯ン青い龍○リュー◯ターがこちらに向かって走ってきた。

 この世界ではドラゴンさえも使役するのか、私は感心して……何故か動けなかった。


 ドラゴンのがすぐ近くへ迫る。

 ひかれる、そう思った時……



「危ねえっ!」


 大声とともに、大きな力で引っ張られる!



(つづく)



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