第4話 おじさま、パーティーに加わる



 店の外から悲鳴が聞こえる。

 衛兵を呼んでくれと、誰かが叫ぶ声もした。


「!」


 イ=デイさんは食べかけの"団子"を投げ出し、店の外へ出た。

 放っておくわけにもいかず、私も続く。


 そこには、人の形をした何かがいた。頭には鋭い角が突き出し、鼻は豚のように潰れていた。そして背丈はゆうに2メートルを超える大柄な……


「こいつはオーガです。ちょっと離れた所にある鬼ノ城を本拠地にしていて、いつもはそこから出てこないのだけど」


 周りの人々が逃げ出している。気づけば、商店街には私たち二人とオーガだけが残った。


「こいつわりとデカいけど、今なら魔力たっぷりだからアタシの一撃で倒せるわよ」


 少女の手に、火球が出現する。


「待ってください、ここでそれを使えば、火事になりかねません」


 少女と鬼の間に立つ。

 中折れ帽を、深くかぶりなおす。


「ここは私に。衛兵が来るまで何とかしましょう」

「わかったけど、危なくなったら撃つからねー」


 なにかしてくるのかと思ったが、オーガはただキョロキョロしているだけだった。

 敵意はなさそうだ。なら、平和的に解決出来るかもしれない。


 (スキル発動:ヘルプデスク会話術)

 脳裏に機械っぽい声が響いた。


 ──気になりますが、それどころではありません。

 私は笑顔を絶やさず、気さくに話しかけた。


「どうなさいましたか? 大変お困りのようですが、よかったら力になりますよ」

「オレ、ミチ、マヨッタ。ナニモ、シテ、イナイ、ノニ。ココヘ、イキナリ、キタ」


 話は通じますね。

 ならば、いつもとやる事は同じです。


「直前になにかされていましたか?」


 何もしていないのに、いきなりトラブルが起こるということはありえない。

 原因があるはずだ。


「コレ、ミツケタ。サワッタラ、ココニ、イタ」


 鬼は頭に刺さっていた何かを取り、こちらに見せてきた。

 ……USBメモリに見える。


 (スキル発動:ヘルプデスク観察眼)

 なんとなくだが、これが原因であるという確信が湧く。


「オレ、イエ、カエリタイ」

「その見つけた物を私にいただければ、街を出るまで案内します。いかがですか?」


 鬼は私の手のひらに、USBメモリのような何かをそっと置いた。


「イ=デイさん、彼を街から連れ出したいのですが、道案内をお願いします」


 ◇◇◇


 駆けつけた衛兵に事情を話し、イ=デイさんと共にオーガを街の外まで誘導した。

 外に出ると"彼"は一礼して、鬼たちがいる城の方向へ去っていった。



 衛兵が感心した顔で礼を言ってきた。


「異世界からの方、お礼を申し上げる。実は時々このような事が起こって困っていたのだ」


 時々、ですか。


「先程の鬼はこのような物を持っていました。何か分かりますか?」


 私はUSBメモリのような物を衛兵に差し出して見せた。


 改めて見ると、それには複雑な幾何学模様とよく解らない文字が書かれてあった。

 そもそもUSBメモリかどうかも怪しい。


「いえ、全く。それは危険かもしれないので、こちらで預からせていただきます」

「これは私がもらった物であって……まあ、いいでしょう」


 揉め事を起こすのはよくない。ここは大人しく従うべきであろう。

 心残りだが、それを衛兵に渡した。



もんげー超絶すごいな、おじさんのスキル。戦わずに解決出来たなんてアタシ初めて見た」


 こちらの古語は、"すごい"の表現が多彩なようだ。

 でーれー、ぼっけー、もんげーの順ですごくなるらしかった。


「私はいつも通りの仕事をしたまでです」

「これなら龍にだって効くんじゃない。だから、手伝ってよ?」


 フフフ、と私は笑った。

 全くこの娘さん粘り強さには恐れ入る。


「わかりました、あなたと組みましょう。今から私はパーティの一員です」

「やった~」


 彼女はくるくると小躍りした。スカートがふわっとして、少々……


 いや、男女のそれではない。年齢が離れすぎている。

 私に浮かんだ感情は、「いとおしい」なのだろう。



 ……涼子が私に地方への移住を誘った時、それを無下にしてしまった。

 あの時選択を間違えなければ、別の人生があったかもしれない。

 今頃どこか地方で家族に囲まれて、きっと子供は彼女のような年齢で。


 時間は戻らない。だが、今回は……これで、いいのだろう。



「では、イ=デイさん、何から始めましょうか」

「そうじゃなぁ……仲間だから、まず私をファーストネームで呼んでほしい」


「わかりました。それなら私のことは『おじさん』以外でお願いします」

「ならおじさまじゃ。レーセーおじさま」


 私はニヤったした笑みを浮かべ、ゆがんでいた中折れ帽を軽くかぶり直した。


「謝礼は高いですよ」

「そこはまっかせて」


 東京に戻る為には、10億必要ですからね。


(つづく)

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