転生管理局スキル取り締まり部の激務
ちょびすけ
第1話 転生管理局
「…それで、俺冒険者になりたいんです!やっぱりギルドとかってあるんですか??」
目を輝かせた男が聞く。
「…」
「あ、あれ?聞いてます?」
「んぁ?あぁ、聞いてます聞いてます。」
窓口で話を聞いていた男は慌ててアホ面を直してニコッと笑う。
「ギルドね。ありますよ〜もちろんあります。ただ、冒険者っていうのは危険が隣り合わせですから…」
窓口の男は覇気のない言葉で続ける。
「せっかくね?第二の人生の幕開けみたいな感じ的なやつですし、適当…いや失礼。農民スキルとか製造スキルでスローライフ的な感じに平穏に暮らすのもいいんじゃないですか?」
一応別の提案もしてみる。
その方が仕事をしているように見えるからだ。
(呑気なもんだなぁ。死んだばっかだってのによ。)
内心はそんな事を考えているが言葉に出さず「はぁ〜」というため息で表現する。
皮肉屋で無気力なこの男をよそに目を輝かせた男は拳を握り熱く語る。
「いえ!俺は冒険者になりたいんです!危険でもいい。この目で世界中を見てみたい!」
(暑苦しいなぁ。熱中症になるわボケ)
心の中の言葉とは裏腹に、窓口の男はニコッと笑い「うんうん」と頷く。
「わかりました。ではスキルの適合検査に入りますが…」
窓口の男が続けようとすると、目を輝かせた男が食い気味で反応した。
「俺もう決めてます!やっぱり攻撃特化のスキル!あっ、武器は剣を使う予定なので相手の動きが遅く見えるとか、スピード増強とかのサポート系スキルも欲しいです!」
目の輝きが一層強くなる男。
スキルと言えば異世界転生の醍醐味。
ほとんどの転生者が心を躍らせる。
このタイプの人間ならば尚更だ。
「いや…あの…」
窓口の男はかったるそうに再びため息をつき説明に入る。
「申し上げにくいのですが…スキルというのは
望んだものが得られるわけではありません。
あくまで適合次第というか…」
窓口の男は転生者が来る度にこの説明をしなければならない事が本当にめんどくさいと感じている。
「なるほど!俺はどんなスキルと適合するんでしょうか⁉︎」
目を輝かせた男は前のめりで聞く。
「その為の検査を今からしますので、こちらにお願いします。」
窓口の男は案内を促す。
「わかりました!では怒りが頂点に達した時、覚醒してパワーが増大し伝説の戦士になるスキルを適合させてください!!」
「話聞いてました??」
そんなやり取りをしながら2人は別室へ赴く。
建物内にはどの階層にも転移魔法の魔法陣が敷かれている場所があり、階層間の移動はこれで行う。
窓口の男はこの魔法陣を使う度に前世の記憶を思い出し
(エレベーターってすごかったんだな…)
そんな事を考えている。
2人が移動したのは先程の窓口がある階から9階層降りた建物の地下にあたる場所だ。
薄灯りが灯る部屋があり、適合検査はそこで実施する。
窓口の男は部屋につくなり颯爽と小型銃のようなものを輝く目の男に向ける。
「な、何を⁉︎」
突然銃を向けられたのであれば誰だってこの反応をする。
「ご安心ください。これは銃のように見えて銃ではありません。『ソウルスキャナー』と呼ばれる装置です。」
ソウルスキャナー。
魂の呼び声に異能が答えて紐付けを行う装置だ。
「そ、そうなんですね!よろしくお願いします!」
輝く目の男がそう言うと、窓口の男は躊躇無く引き金を引いた。
その瞬間、「ドン!」という音と共に弾丸が輝く目の男の心臓を一直線に貫いた。
男は驚いた顔の状態で硬直し、膝から崩れ落ちるように倒れた。
吐血と胸部からの流血で床が赤く染まる。
「銃のようなものであって銃ではない。しかし弾が出ないとは言ってないですからね。あとはあなた次第です。」
窓口の男は気だるそうに呟き部屋を後にする。
「なんか最近転生者多くね?仕事が増えてる気がするんだけど…」
そんな事をぼやきながらデスクに戻り事務処理を片付けていると隣から声をかけられる。
「レムエム部長!お疲れ様です!案内終わりました??」
爽やかな声の主はクルルスという青年。
男の部下だ。
「クルルス君。お疲れ〜。今終わったところだよ。」
窓口の男、転生管理局スキル取り締まり部部長ジエヌ・レムエムが答える。
「なんかやけに熱い人でしたね。勇者気質な感じがしましたけど。」
「あいつが勇者になったら魔王の世界征服も楽な仕事だな。」
クルルスの言葉に皮肉で返すレムエム。
「さっきの人はどんなスキルに適合したんです??」
クルルスの問いにレムエムが答える。
「何と特異スキルを獲得してたぞ。」
スキルには『汎用スキル』と『特異スキル』の2種類がある。
汎用スキルは不特定多数の人間が獲得する事ができるスキル。
目の輝く男が欲していたスピード増強などがそれにあたる。
特異スキルは世界で1人しか保有する事ができない固有スキルの事を言う。
「すごいじゃないですか!そんな適性があったなんて!」
クルルスの言う通り、確かにすごい。
特異スキルは誰でも獲得できるわけでは無い為保有者は非常に稀な存在だ。
「うむ。今回奴が獲得したスキルはこの特異スキルだけだったが大した奴だよ。」
「で、どんなスキルです?」
興味深々のクルルスにレムエムが答える。
「『フラッシュアイ』スキル保有者はその瞳から眩い閃光を放つ。」
「それってつまり…」
戸惑うクルルス。
「あぁ、目が輝くスキルだ。」
「…。」
今頃は世界のどこかで目が輝く赤ん坊が生まれたと大騒ぎだろう。
そんな事を考える2人の間に変な空気が漂った。
「部長、飯行きましょう。」
「うむ。」
こうして2人は席を立つ。
「今日も残業ですか?」
歩きながら話題を変えるクルルス。
「当たり前だろ。精がつくもの食っといた方いいぞ。」
レムエムが答える。
「じゃあ味噌煮込みメンチカツシチューラーメンとかどうです?これが美味いんですよ〜」
「…。ほぼゲロじゃねーか。」
そんなやり取りをしながら建物を出る。
するとそこには広大な庭園が広がっていた。
あたり一面に数多の種類の花が咲き、エメラルドグリーンの小川が流れ、黄色い光が彩度をさらに強くする。
2人は石畳を進み、小川にかかる小さな橋を渡る。
その瞬間景色は一変し、路地裏のような場所に出る。
建物と建物間から光と賑やかな音が差し込む。
街に出たのだ。
ここにもまた転移魔法が施されており、移動は楽々だ。
レムエムはこの街が嫌いではない。
激務に追われる毎日だが、この賑やかな街に出た時だけ、異世界ライフを感じられるのだ。
「さっき言ってた店、俺の知り合いがやってるんですよ!昼時だけど混んでないかな?」
クルルスが言う。
「マジで行くの?てかマジであんの?」
レムエムのツッコミを他所に店につく。
西部劇に出てきそうな木造の店。
店先に大きくかけられた看板にレムエムの不安は一層増した。
看板の文字はこうだ。
『ガルフのお前の肉食ってやろうか?』
「ねえこれ店名?」
レムエムが言う。
「少し混んでそうだけど大丈夫かな?」
クルルスがつぶやく
「ねえこれ何屋?」
レムエムが聞く。
「とりあえず入りましょう!」
クルルスが言う。
「ねえなんで無視?」
レムエムの言葉に見向きもせずクルルスが店内に入る。
「いらっしゃい!」
ドスの聞いた声で迎え入れられ、1人の男が近寄ってくる。
イカつい顔立ちに加えて目元には傷跡がある。
何より特徴的なのは獣の耳だろう。
狼の獣人だ。
「ようガルフ!元気?」
クルルスが話しかける。
「クルルスじゃねぇか!なんだおい!久しく見ねぇと思ったらよぉ!」
陽気なやりとりをレムエムが後ろから聞く。
「忙しくてね!でも久しぶりにガルフの飯食いたくてさ!」
そんな会話の中でやっとガルフは後ろの男に気がつく。
「今日は連れもいんのか!そちらさんは??」
ガルフが聞くとクルルスが答える。
「俺の上司!ここの味を教えたくてさ!」
「そうかそうか!上司さんですかい!じゃあ特別腕を振るうぜ!」
そう言うと同時にガルフはある事に気がつく。
この時レムエムも何か心当たりがあるかのような顔している。
「なぁ、あんたどっかで…」
レムエムが言いかけるとまたもクルルスが答える。
「気づきました?彼も転生者です!」
「あぁ、どうりで。」
レムエムは納得し思い出す。
ガルフも思い出す。
「思い出したぜ!その節はお世話になりました。」
『イタクラヒュウガ』前世のガルフだ。
繁華街で起きたギャングの抗争に巻き込まれて死亡。その後転生管理局での審査が通り、様々な手続きを終え獣人として異世界へ転生。
その際彼のスキル付与を行ったのがレムエムだった。
昼時のピークタイムが少し過ぎ店内が落ち着いてきた頃2人のテーブルにガルフが料理を運んできた。
味噌煮込みメンチカツシチューラーメンだ。
「…。その後はどうだ?確かあんたは冒険者にってはずじゃなかったか?」
他にも言いたい事はあるが、別の話題でレムエムが話しかける。
ガルフは少しシュンとした顔になり、異世界でのこれまでを話す。
「冒険者にはなったんす。ギルドに登録もして、それなりにランクの高いパーティにも入りやした。」
ガルフは首にかけてたタオルをとり2人の席に座る。
「でも、やっぱり怖くなっちまって…」
彼の話にクルルスも少し落ち込んだ表情になる。
「冒険者は確かに夢がありやした。世界中いろんなところに行って。でもそれ以上に危険がつきなかったんすよ。
俺、もう死ぬの嫌なんすよ…」
(ふぅん)と言った表情でレムエムは聞く。
「だから思い切ってジョブチェンジしたんす!冒険で稼いだ金でもう一つの夢だったステーキハウスを開いたんす!」
(ステーキハウスだったのね…)
レムエムの謎が一つ解けた。
「ちゃんとスキルも活かせてまっせ!」
ガルフの言葉にレムエムは記憶を掘り起こす。
(確かこいつのスキルは…)
そんなレムエムの前でガルフは口から炎を吐き、味噌煮込みメンチカツシチューラーメンを温め直す。
「…」
『フェンリルの咆哮』
全身を憤怒の炎で纏った異世界の魔獣。
その魔獣の力の一部がスキルとなり、ガルフに適合したのだ。
「今日、お会いできて良かったっす。」
ガルフは続ける。
「ねえこれ毛玉とか入ってない?」
料理を見つめたレムエムが言う。
「親身に相談に乗ってくれた管理局の皆さんには申し訳ないと思ってましたから…」
ガルフが話す。
「ねえこれ吐瀉物じゃないよね?」
心配そうに料理を見つめたレムエムが言う。
「本当に申し訳ねぇっす。」
両膝に手をのせ深々と頭を下げたガルフを横目にレムエムは料理を口に運ぶ。
「別に申し訳ねぇ事ねぇだろ。あんたの人生だからな。」
もごもごと咀嚼しながらレムエムは言う。
「あんたは自由で、ここは異世界だ。楽に行こう。」
微笑むレムエムに安堵したのか、ガルフもまた笑顔が戻る。
「俺からしたら羨ましい限りだけどね。転生ってのは2度目のチャンスだ。みんなが可能性に満ちてる。」
レムエムの言葉にクルルスはいつもの皮肉ではないと感じた。
「でも転生局なんて選ばれた人しかなれない職業じゃないんすか?エリートっすよ!俺だって羨ましいっす!」
言葉を発したのはガルフだった。
その言葉にレムエムはニヤつき、ついには「フッ」と笑った。
「違うよガルフ君。選ばれたんじゃない。選ばさせられたんだ。無理矢理な。」
いつもの皮肉に戻ったとクルルスは感じた。
「でもクルルスは冒険者でも騎士でもなくて、なりたくて転生局員になったんだよな?部長さんは違うんすか?」
不思議に思ったガルフは続けた。
「確かに…部長はどうして転生局に?」
今なら聞けると感じたクルルスは今まで聞きたかったことを尋ねた。
「どうって…」
レムエムは腕を組み回想モードに入る。
「前世で死んで目が覚めたら転生局にいた。」
ほうほうと聞くガルフとクルルス。
ここまでは普通の転生者と同じだ。
「訳もわからずウロウロしてたら…」
ほうほうと頷く2人。
「ある男が近寄ってきてこう言った。『このまま死ぬか僕についてくるか。』ってな。」
んん?と眉間に力を入れる2人。
「ついて行ったんすか?」
急展開に耐えられないガルフが聞く。
「んまぁ、だから生きてるんだけど。」
淡々と答えるレムエム。
「ついて行ってどうなったんですか?」
クルルスが聞く。
「おかげで充実した毎日だよ。社畜奴隷として。」
レムエムが答える。
「今思えばあれは間違えてたのかな。ついて行ってしまったがために俺の第二の人生はこのザマだ。」
いつもの皮肉モードがヒートアップする。
「その男って一体…」
クルルスが次の質問をしようとした時、レムエムは被せて嘆いた。
「あぁ、王族または貴族の次男になりたい人生だった。何だよ転生局って。何だよ味噌煮込みメンチカツシチューラーメンって。」
「いや、うちの料理は関係ないっす…」
ガルフが言う。
『はぁ〜あ』とため息をつき席を立つレムエム。
出口に向かって歩く途中、くるりと振り返りガルフに話しかける。
「死ぬのが怖いガルフ君。再会のよしみで俺から2つアドバイスだ。」
ガルフは獣の耳を傾ける。
「一つ、死ぬ気で異世界を楽しめ。二つ…」
一つ目のアドバイスにすでに胸を貫かれていたガルフは期待で生唾を飲む。
「店名を変えろ」
そういうとレムエムは颯爽と店を出る。
料理の味に何も言わなかった。
クルルスも慌てて後を追いかける。
「ご馳走様!またくるね!」
手を振るクルルスにガルフは対応できなかった。
レムエムのアドバイスに呆然としていたから。
昼時を完全に過ぎた頃、2人は局に戻る。
レムエムは午後イチの会議をすっかり忘れていた。
「やっべ」
転生管理局スキル取り締まり部の激務 ちょびすけ @kanbihanamaru
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