第2話 捜索

 俺が記録係になってから三日が過ぎた。


 司令室のコンソールを叩き続け、俺はこの要塞が『アストライアーB-12』という名の、放棄された教育を行うための、いわば学園のようなステーションであることを突き止めていた。


 どうりで本格的な兵装が見当たらないわけだ。

 ほとんど丸腰みたいなもんじゃないか。


 一方、天道たちが率いる探索隊は、備蓄食料や水プラントを発見するなど、少しずつ成果を上げ始めていた。

 クラスにも「これなら何とかなるんじゃないか」という淡い希望が生まれ始めていた。


「また根詰めてるのか、相川。これ、飲めよ」


 声の主は、佐藤健太。クラスでは数少ない、俺がまともに話せる相手だ。

 手に持っていたマグカップ(探索隊が見つけてきた備品)を俺に手渡してくる。


 中身は、おそらく粉末を溶かしただけのインスタントコーヒー。

 それでも、カフェインの匂いが疲れた頭にはありがたかった。


「サンキュ、佐藤。お前は探索の方か?」

「いや、俺は神崎さんの下で動力炉のチェック。まあ、ほとんどお使いみたいなもんだけどな」


 佐藤はそう言って笑うと、俺が映し出しているコンソールのデータに興味深そうに目を輝かせた。

 こいつは物理部きっての理論派で、こういう無機質なデータの羅列を見ると興奮するタイプの人間だ。


「へえ、『アストライアーB-12』か。教育用ステーション……。道理で居住区画の設備がやけに快適なわけだ。俺たちの高校よりよっぽど過ごしやすいぜ」

「快適でも、襲われたら終わりだ。自衛用の機銃すらほとんど死んでる」

「まあ、そう言うなよ」

 佐藤は俺のぼやきを軽く受け流し、画面を食い入るように見つめている。


「お前がいれば、この要塞の操縦シミュレーターくらい動かせるかもな。もし残ってればだけど」

「シミュレーター!?面白そうだな!やってみようぜ!」


 俺の軽口に、佐藤はすっかり乗り気になっていた。

 二人で顔を寄せ合い、シミュレーション関連のデータを探し始めたその時だった。


――平穏を切り裂くように、けたたましい警報が鳴り響いた。


『警告。未確認オブジェクト、急速接近』


 無機質な合成音声と共に、司令室の赤い非常灯が激しく点滅を始める。

 俺と佐藤は顔を見合わせた。

 メインスクリーンに映し出されたのは、明らかに武装を施された一隻の宇宙船だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る