クラス転生国家 ~ぼくらの宇宙要塞、建国します!~
風街こ未
第1話 宇宙
金属のひんやりとした感触と、消毒液みたいな無機質な匂いで俺は目を覚ました。
ついさっきまで、修学旅行へ向かうバスの中だったはずだ。
なのに、今俺が横たわっているのは、硬くて冷たい床の上だった。
「……ってぇ」
体を起こすと、周囲には同じクラスの奴らが次々と目を覚まして呻き声をあげていた。
見慣れた制服。見慣れた顔ぶれ。
だが、ここがバスの中ではないことだけは確かだった。
そこは、体育館ほどもあるだだっ広い空間だった。
壁一面に、今は沈黙したままの計器類が並び、正面には映画館のスクリーンのような巨大なモニターが鎮座している。
薄暗い空間を、天井で点滅する赤い非常灯だけが不気味に照らしていた。
「お、おい……あれ見ろよ」
混乱が頂点に達したのは、誰かが窓の外を指さした時だった。
窓……と呼ぶにはあまりに巨大な強化ガラスの向こうには、漆黒の闇が広がっていた。
そして、その闇の中を、数えきれないほどの星々が宝石をぶちまけたように瞬いていた。
宇宙だ。
その一言も出せないほどの絶景が、俺たちの置かれた異常な状況を雄弁に物語っていた。
「どうなってるの!?」
「おい、誰かのイタズラかよ!」
泣き出す女子、叫ぶ男子。阿鼻叫喚とはこのことか。
俺はただ、その光景を壁に寄りかかりながら冷静に眺めていた。
いや、冷静だったわけじゃない。現実感がなさすぎて、まるで出来の悪いVRゲームのオープニングを見ているような気分だったんだ。
「みんな落ち着け!!」
その時、凛とした声が響き渡った。
生徒会長の天道樹だ。サッカー部のエースで、成績も常にトップクラス。
女子からの人気も絶大で、絵に描いたようなカリスマを持つ、俺とは正反対の人間。
天道の声には、不思議と人を従わせる力があった。
騒ぎは完全には収まらないが、少なくとも全員の意識が彼に向く。
「パニックになっても状況は変わらない!まずは現状把握が先だ!動ける男子は俺と手分けして、この施設の中を調べるぞ! 女子はここに固まって、負傷者がいないか確認してくれ!」
的確な指示。こういう時、ああいう人間が光り輝いて見える。
俺みたいな日陰者は、ただそれに従うしかない。
次々と名前が呼ばれ、「食料探索班」「動力室調査班」といったグループが作られていく。運動部の連中や、クラスの中心にいる陽キャたちが、待ってましたとばかりに動き出す。
もちろん、俺の名前が呼ばれることはない。体力もなければ、リーダーシップもない。誰かの記憶にわざわざ残るような存在じゃないからだ。
まあ、その他大勢の一人として、ここで待機になるんだろうな。そう思っていた。
「あ、相川」
不意に、天道が俺の存在を思い出したかのように言った。
「お前、図書委員だったよな?だったら、ここの司令室に残って、このログデータの整理を頼めるか?何か分かるかもしれない」
彼が指さしたのは、司令官が座っていたであろう席のメインコンソール。
そこには、意味不明な文字列と、赤いエラーコードの羅列が延々と表示されていた。
記録係。いかにも俺らしい役回りだ。
「……わかった」
俺は短く答えた。危険な探索に行くよりはずっといい。
「よし、頼んだぞ! 他の奴らは行くぞ!」
天道の号令一下、クラスメイトの大半が、緊張と少しの高揚感を浮かべながら部屋を出ていく。
残されたのは、負傷者の手当てをする女子数名と、隅でまだ泣いている生徒、そして俺だけ。
賑やかさが嘘のように静まり返った司令室で、俺はコンソールチェアに深く腰掛けた。
目の前には、膨大な情報。エラーコード、システムログ、破損データ。
普通なら見ただけで頭痛がしそうな情報の海。
だが、不思議と心は落ち着いていた。
膨大な情報を前にすると、どうしてか安心する。
やるべきことが、はっきりとそこにあるからだ。
「さて、と……」
俺は小さく呟き、指をキーボードに伸ばした。
まずは、この要塞の名前と、最後のログが記録された日時から調べるか。
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