しゅわっと!デイズ~Weekend Squash~#1(試し読みサイズ)

夏生るい

第1話『妖精カッシュとはじめる夏休み』

「涼、オレンジスカッシュを作ってみたよ」

「……おいしい!」

かつて父親と過ごした深緑の街で、当時5歳の上南涼は炭酸ジュースを好きになった。

老朽化した桜の花が散る頃には高校生になり、今でも週末に自販機へ寄ることを日課にしているという。

そう――ひとりぼっちの夏休みに、自称しゅわっと妖精を拾うまでは……。


――涼、いい加減起きろ……だっぜ!

「う……!?」

小鳥がさえずる朝。熱い日差しのなか、涼の腹に飛び込むものがいた。

「カッシュ、お休みなんだから少しは……」

「だーめっ!」

赤き二頭身の妖精カッシュは遊んでほしいという。涼は痛いと呻きながらも、

「……わかったから降りてくれ、苦しい……」

拗ねるカッシュの身を抱き上げた。

くるくると飛び回る妖精の姿は、大人で現実的な母親には見えないだろうと思う。

(声だけは大きいからな、こいつ)

それでも油断ならない気がした。

「しょうがない」

涼はモヤモヤを抱え、シャツとジーンズに着替えていく。

ダイニングに入れば『まったくお寝坊さんなんだから……』と母親にも拗ねられたが、涼は気にせずシュガートーストとレモンスカッシュを口にした。



「りょー、なにしてるんだ?」

「学校の宿題」

自室でテキストに集中する涼のことを、カッシュが興味深そうに見つめている。

「字だらけでわかんね~……」

その興味関心も長くは続かず……といったところか。

「無理もないな」

頭から湯気を吹くカッシュを見て、涼は苦笑いするしかなかった。

(母さんに叩き込まれなければ、ここまで進まなかったろうな)

自分とて最初から頭がよかったわけではない、と。

「……次は英語だ」

目をバッテンにして横たわるカッシュをよそに、英語のプリントを広げる。それもさっさと済ませ、

「よし」

そっとテキストやノートを閉じた。

「カッシュ、終わったぞ」

小さな耳にそっとささやくと、緑の羽根がピクピクと動き出して。

「涼、おそと連れてってくれるのか!?」

「今の時間なら道が空いてるからな」

「やったっぜ~!!」

ご機嫌になって飛びついてくる。

(まったく……)

賑やかすぎるのは困りものだが、楽しそうにしてくれるのはいいことだろう。

「さあ……出かけるか」

涼は緑のショルダーバッグをさげ、重たいドアをこじ開けた。


                              試し読み END


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しゅわっと!デイズ~Weekend Squash~#1(試し読みサイズ) 夏生るい @RuiNatsuki

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