第3章 神の名を冠するもの

「尊厳指数」――

それは僕が願った、たったひとつの答えだった。

人間の価値を数値化し、秩序を乱す者を未然に選び出す。

それだけで世界は救われる。そう信じていた。


だが、その考えは、想像以上に速く、そして歪んだ形で広がっていった。


ある同志が言った。

「これは人が考え出した理屈じゃない。天が授けた理そのものだ」


別の者は、僕の言葉を引用しながら群衆の前で叫んだ。

「尊厳指数こそ、人間を正しく導く神の裁定だ!」


僕は違和感を覚えた。

僕が求めたのは、冷徹な秩序だった。

それなのに、彼らはそこに“神”を持ち込み、祈りを絡め始めたのだ。


――真命教団光律会。


彼らは自らそう名乗った。

僕が提唱した指数を、神聖なものとして祭り上げ、人々に布教を始めた。


「正しい者は救われ、低き者は裁かれる。

 これこそ天の光律(こうりつ)。」


民衆は熱狂した。

冷たい数値より、宗教的な言葉の方が心に響くのだろう。

そして、僕の思想は、僕の手を離れて膨らみ始めた。


その光景を前に、僕は思った。

――利用できる。


たとえ信仰に姿を変えようと、根底は同じだ。

指数が世界を導くという事実さえ揺るがなければいい。


父と母を奪った“闇”を二度と許さないために。

僕は、彼らの熱狂を否定せず、黙って見守ることにした。


その決断が、やがて“厚生未来庁”という巨大な制度の土台になることを、

このときの僕はまだ知らなかった――。

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