第2章 灰と光の分かれ道

あれから十年。

僕は成人し、「灯火の環」に残された活動を受け継いでいた。


両親を奪ったあの事件は、組織に深い傷を残した。

“人は変われる”という理念を、なお掲げようとする者たち。

そして――「更生など幻想だ」と吐き捨てる者たち。


その裂け目は、日ごとに広がっていった。


僕は迷っていた。

両親の信念を継ぐべきなのか。

それとも、彼らの死が証明したように、厳しい選別こそ正義なのか。


ある日、会合で年配の活動家が言った。


「我々は愚かだった。犯罪者に情けをかけるたびに、善良な市民が犠牲になる。

 更生など夢物語だ。必要なのは“見極め”だ」


その言葉に、僕は心を撃たれた。

彼の視線の先にいたのは、かつて両親を殺した男と同じ“尊厳の低い者たち”だった。


――もしあのとき、父と母が出会う相手を選べていたら?

――もし、危険な人間を前もって区別できていたら?


胸の奥で、答えは決まっていた。


「尊厳指数」――人を数値で見極める仕組み。

それさえあれば、善良な人間が無意味に殺されることはなくなる。


僕は気づいた。

父と母の死は無駄ではない。

彼らの犠牲こそ、新しい秩序を生むための礎になる。


そして、その夜。

灯火の環の中で、僕と同志たちは新しい名を掲げた。


「灰の連盟」。


人間の弱さと愚かさを、僕はもう信じない。

信じられるのは、数値と秩序だけだ。


それが、正しい世界への第一歩だった。

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