第4章 政と制度の狭間で
「思想だけでは、世界は変わらない。」
それが、僕が痛感した現実だった。
尊厳指数を説き、信じる者は増えた。
真命教団の熱狂は街にあふれ、群衆は「正しい世界」を夢見て祈りを捧げた。
けれど――祈りだけでは秩序は築けない。
数値は、国家の枠組みに刻み込まれなければ意味を持たない。
そこで、僕は決断した。
政治に乗り込む、と。
同志たちの中から有志を募り、僕らは「真命更生党」を旗揚げした。
犯罪や福祉の問題に苦しむ国民の前で、僕は訴えた。
「尊厳指数を導入すれば、犯罪は未然に防げます。
医療や年金の負担も軽減されるでしょう。
――救うべき人間を救い、切り捨てるべき人間を切り捨てる。
その選択を国家に委ねるべき時です。」
拍手が湧き起こった。
僕の両親を殺したあの夜から抱き続けた理念が、今、国家の舞台で受け入れられていく。
だが、同時に反発もあった。
「人間を数値で裁くなど非人道的だ!」
「尊厳は誰にも測れない!」
その声を、僕は冷笑で退けた。
非人道的? ならば、両親を殺したあの男のどこに“尊厳”があったのか。
口先だけの理想論で、いったい何を救えるというのか。
支持は膨れ上がり、やがて僕らは政権中枢に食い込んでいった。
そして――。
「厚生未来庁」。
その設立計画が閣議に上った瞬間、僕は理解した。
これは、ただの制度ではない。
人類の進化の第一歩。
尊厳指数によって世界を選別し、正しい者だけが未来を築く。
僕が夢見た秩序は、もう手の届くところにある。
だが、心のどこかで、微かなざわめきがあった。
――これは本当に、平和をもたらすのだろうか。
僕はその声を、聞かないふりをした。
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