第6話 冒険者に、俺はなる!!
結論から言おう。
俺は冒険者になった。
なったのだが……
「ねーねー! これ美味しい! 特製のピザ!! さいこーだよ!? ほら! ケイタも!」
俺の目の前にはエミルがいる……しかも、ギルドのテーブルで食事を共にしている。
「お前……なんで、まだ居るの?」
「はー? あんた、さっそくボケたの? パーティー組んだんだからとーぜんでしょーよ! ウチら仲間なのよ? ナ・カ・マ!! もっと丁重にあつかいなさいっつーの!」
フンガ! と豪快に骨付き肉を食いちぎるエミルは刹那に恍惚の表情を浮かべてほっぺたを押さえた。
「おーいしー! ほらほらケイタも! 冷めちゃうわよ!」
「わかってるよ……」
目の前の骨付き肉に手を伸ばす。
クエスト完遂、及び冒険者登録完了の晩餐なのに、食が進まない原因はたった一つ。
エミルとパーティーを組む流れになってしまったからだ!!!!
かいつまんで話そう。じっくり話したらうらみつらみだけで夜が明けてしまう。
そう。あの後、俺は魔法陣発見とその破壊を行ったことでこの長期クエストを完遂したと見なされた。
そして、期間内にクエストを請け負った冒険者に分配するよう預けられていた多額の報酬を一気にもらい受け、思わぬ収入となったのだ。
もちろん、エミルが退治した分はヤツが貰っていった。
ここまでは良かった。俺は大いに舞い上がっていた。
しかし、その後のお姉さんの発言により、その気分は急転直下、地獄へと叩き落された。
「あの。一つ提案なんですけど、パーティー登録ということであれば枠は一つでお二人が冒険者として登録できるんですけど……? 今回のクエスト達成を見るにお二人の相性も良さそうですし……」
恐る恐る、だがにこやかに受付のお姉さんは俺とエミルに告げた。
きっと、気づかってくれたのだろう。どちらかが冒険者になれないのも後味が悪いのでは。と。
「えー! じゃあ私も冒険者になれるの!? やったよケイタ! 二人とも冒険者になれるよ!」
「うわっ! いきなりひっつくな!」
お姉さんの言葉を聞いたエミルはとんでもない素早さで俺に抱きついてきた。意外に力強いな。
「うふふ。それじゃ早速パーティー登録しますね。少々、お待ちください」
「あ、ちょ! ちょっと!」
「やったねー! ケ・イ・タ!!」
俺の胸に頬ずりするエミルを見て、お姉さんは俺の制止も照れの表れと見なしたのだろう。うふふと笑いながら奥に引っ込んでしまった。
「はー! ちょろいちょろい!」
意地の悪い顔でエミルは俺から体を離す。なんでコイツは一仕事したような雰囲気を出してるんだ。
「おい、お前。俺はパーティーなんか組まないからな!」
「あらやだ。なんで?」
「なんでもかんでもあるか! なんで俺がお前みたいなワケわかんねー奴と組まにゃならんのだ!」
「わけわからないのはアンタでしょーよ」
「!?」
エミルは「フン」と俺を鼻で笑う。
「私みたいに資格もないし、どこから来たのかもわからないし、見たこともない魔法使うし。あー、そっかアンタもしかして魔王の使いかなんかなんじゃない? じゃあここにいる冒険者みんなで……むぐぅ!」
俺は咄嗟にエミルの口をふさいで隅に寄せる。周りを確認したが、こちらを警戒している素振りはない。よし、何も聞かれなかったようだ。
「むぐ! むぐぅ!」
暴れるエミルを押さえて、俺はゆっくりと口から手を離す。
「アンタこんなことし――――むぐぅ!」
やっぱり、またふさぐ。
「おいエミル! 変なこと言うな! とりあえず落ち着け。いいか? 落ち着け」
コクコクとエミルが頷き、再度俺は手を離す。
「いいか? お前は特急魔導士。そのネームバリューがどのくらいかは知らんが、そんなお前が魔王の使いを発見したって言ったら、どうなる?」
「そりゃそこら中の冒険者が討伐に繰り出してくるでしょうね」
そーだ。と俺は頷く。
「その通りだよエミル。そしたら俺はどーなる?」
「終わりね。そいつら全員倒しても一生追われる身だろうし、負けたら死ぬし」
「そーだとも、そーだとも。お前は今、それをしようとしたんだぞ? なんの罪もない男を地獄に落とそうとしたんだぞ?」
「それがどーかしたの?」
「どーかしたの? じゃねーよ! 話聞いてたのかよ! お前に良心ってもんはねーのか?」
「あるわよ」
「じゃー、俺を魔王の使いだなんて嘘はつけねーはずだ」
エミルはフーっと息を吐いて「そーね」とつぶやく。
「それは、確かにそーだわ。ごめん。私が悪かった。ねぇ、ケイタに一つ聞いていい?」
「ん? なんだ?」
腕を組んで首をかしげる俺にエミルはうるんだ瞳を向けてくる。
「ケイタは良い人なの?」
「俺? そりゃーまぁ」
ここへ来て早々に人を助けてるしなぁ。やっぱり悪いことは見過ごせないし。
「いい人。だと思うぞ」
「じゃあ、いたいけな女の子が冒険者になれず途方に暮れるのを黙って見てられるわけないわよね?」
「……ん?」
「そして、そのまま悪い大人に騙されて悪人の奴隷にまでなりさがって日がな一日中、あんな事やこんな事されて、死にゆくまで苦しめられるなんて人生を送らせないわよね?」
「ちょっと待て。さっきから何の話をしてるんだ?」
エミルはグイっと俺に顔を寄せる。
「責任とって」
「は?」
「責任とって責任とって責任とって責任とって責任とって責任とって責任とってぇーーー!!!!!」
「まてまてまて! タイム! ターイム!」
いきなりその場に寝転んでバタバタと駄々をこね始めるエミルに俺はもちろん、周りも慌て始める。
「おいおい、なんだなんだ?」
「あれ、あいつだよ。なんかあの子『責任取って』って言ってるぜ?」
「マジかよ……アイツ。あんなかわいい子に何したんだよ」
「とんだ悪人なんじゃねーか? いいのか? あいつさっき冒険者登録しようとしてなかったか?」
カチャリ、と鞘から剣を抜く音がどこかで聞こえる。
まずい!!
「おーいおいおい! 勘違いしちゃダメじゃないかー! エミルは俺のパートナーなんだから! これから一緒に冒険者になるんだぞ? 責任なんて言葉は良くないなぁー!」
つとめてにこやかにエミルへと手を伸ばす。
すると、ピタッと動きが止まり、ヤツの顔がにんまりと歪んだ。
「けーやくせーりつー!」
おぞましい……コイツ、つかえるもんは何でも使う、手段を択ばないタイプだ。マジかよ……。
俺は肩をポンとたたかれる。
「あん?」
振り返ると、そこにはひときわ体のでかいスキンヘッドの男が笑って立っていた。
そいつの拳から親指が立つ。
「責任取る。男の決断だな」
グッじゃねーよ。俺、なんもしてねーんだよ。むしろ責任取ってほしいのは俺だよ!!
もう! 受付のお姉さん! 責任取って俺のもんになれよ!!
――――――――なんてことは言えるわけもなく。
「ほらほらケイタ! 食わないと! なくなっちゃうよ!」
俺はエミルの思惑通り、パーティー登録しか選択できず、お姉さんからも周りの冒険者連中からも祝福を受けながら、コイツとパーティーを組むことになった。
つまり、こいつら全員証人ってわけだ。
「あーもう!!」
「お! ケイタやっとエンジンかかったわね! そーよ! お姉さん追加ジャンジャン持ってきてね!」
はーい! と遠くでお姉さんの返事が響く。
夜のギルドはクエスト終わりの冒険者や、昼間から継続して飲んだくれている冒険者が入り乱れて、てんやわんやの大騒ぎだ。
おまけに新しい仲間ができた祝賀ときたもんだから、今日の宴は一層さわがしい事だろう。
もーいいや! ヤケだ!
「こーっなったら!! 今晩の飲み代は全部俺のおごりだー!!」
テーブルに立ち上がり、ジョッキをかかげるとギルド中で「うおーーーーー!!!」と声が響く。
舞う肉、舞う酒、飛ぶ肉、飛ぶ酒。
飲めや歌えや、食えや踊れやの宴会は結局、夜が明けるまで続いた。
そして、俺の所持金はほとんど無くなった。
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