第7話 ご一緒しませんか!!
「はい! 確かに! こちら今回のクエストの報酬となります!」
受付のお姉さんはにこやかに小さな布袋をカウンターに置いた。その瞬間にエミルは袋の紐をほどき、中身を確認して、これ見よがしにため息をつく。
「はぁ……さみしいわね。3日も暮らせないじゃない」
「もうちょっと節制すれば5日は暮らせるぞ?」
俺が言うと、エミルはキッと睨みつけてくる。
「イヤよ! アルコールは1日を終わらせるリセットボタンなの! おいしいお酒とご飯を食べて、また明日も頑張るのよ! それを我慢するなら生きてる意味もないわ!」
報酬の入った布袋を懐にしまいながらエミルは言う。生きる意味も何も、俺はコイツが何のために冒険者をやっているのかも知らないのだが。
とにかく、これで手続きは終えたので次のクエストを探しに掲示板へと移る。
まだ日暮れまでも時間があるし、このタイミングで夜勤でもあればこちらとしてもありがたいのだが。
「そんなうまくはいかないよなぁ……」
一人ごちる。
そうなのだ。
俺とエミルが対決したクエストはかなり特殊なもので、あの時のように長期分の報酬を一気に貰い受けるような事例などほとんどないらしい。
加えて、冒険者レベルという名の制度。
金銀銅のランク分けの他に、クリスタルという最上位ランクと見習いという最下位ランク。
この二つは特殊な位置づけで、どちらも一定の条件を満たさないと昇格出来ない仕組みになっている。
そして、俺らは当たり前だが「見習い」ランクである。
そして、これは特例を除いて、クエストを100回完遂しなければ銅レベルへの昇格を認められていないのだ。
そして、そのランクによって出来るクエストが違ってくる。
俺たちのような見習いはA~Eランクの中で「E」しか請け負えない決まりになっていた。
ランクが低いので、難易度も低いのだが、その為、報酬も低い。
くそっ! あの時、ヤケになって酒盛り代を全部おごったりしなければ!!
と悔やんでも報酬はもらえないので、こうしてクエストを探しているわけだ。
「ないねぇー。夜のクエストってランク高いのばっかじゃん」
エミルが背伸びして掲示板のクエストを眺めている。
「そうだなぁ。夜勤の方が報酬高いからそっちをメインにやっていきたいんだけどな」
夜勤のクエストでランクがEのものはそうそう見つからない。なので、報酬の少ない日勤で食いつないでいる俺たち。そんな生活が始まってもう1週間が経っていた。
そんな時だった。
「あああ、あのぉ……もしかして報酬の高いクエスト探してますか?」
背後からかけられた遠慮がちな声に俺もエミルも同時に振り替える。
それにビックリしたのか、声の主はビクッと肩をあげて一歩うしろへ退いた。
「あああ、あの! ごめんなさい! もしかして報酬の高いクエストを探してるのかなって! さっきも受付でお金の話してましたし! 今も夜勤を探しておられるようなので、もしかして。と思って!」
両手を前に出してぶんぶん振りながら説明するその人は、なるほど結構な美人さんだった。
白いタンクトップで、へそを出し、擦り切れたホットパンツから伸びた手足は長く、肉付きは程よい感じ。しかし、そんなワイルドな恰好からは想像もできないような黒髪ショートの清楚系女子はその顔にまだあどけなさが残る。恐らく10代後半か? 服装から見て武道家のようだが。見る限りじゃ弱そうだ……。
「ケイタ。ケイタ!」
肘で小突かれ、エミルに向くと前方の胸元を指さす。
そりゃお前より全然膨らんでるが、大きすぎず小さすぎずで程よく弾力のありそうな胸だが……ん?
「あんた、銀の冒険者なのか?」
その胸元に落ちた銀の紋章がついたネックレスに俺は思わず聞いてしまった。
「そそそ、そうです! 銀の冒険者です! だから、その私はあなたたちより高額のクエストができて、なのでなので!」
「あんた、何が言いたいのよ?」
エミルが眉をひそめる。その顔に女は「ヒィ」と驚いてブンブンと首をふった。
「ちちち、ちがうんです! ですから、その! 私と!」
「私と?」
俺が首をかしげると、女は胸元で手を結びながら顔を寄せてくる。
「わわわ、私とクエストしませんか!!!????」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます