第2話 知識は最強!!


【はーい! 時間でーす! おー、結構読んでますねー!】


 ちょうど一冊読み終わり、光の粒子が散らばった所で俺は顔を上げた。


「ひさしぶりだな。ってか腹も減らないし、眠くもならないなら先に言えよ」


【あれー? 言ってませんでしたっけ? あははー! ではでは! 転送先も決まりましたんで!】


「いや、だからちょっと待てよ! もっとちゃんと説明をしろ! 説明を!」


【時間なんですいませーん! ではではお元気でー!】


「だー! もう! 最後の最後まで雑かよ! ……お? お! うおおお!!!!」


 床がぐにゃりと落ち込み、俺はその中へと落下する。

 アレだ。ジェットコースターの最初の落下する時に似てる。苦手なんだよな、あの感覚。



「……おーっと! いってぇ……」


 ドシンと尻もちをついて、俺は地面に手をつく。

 久しぶりの土の感触にちょっと感動した。


「これは、山道か?」


【はーい! 正解です! まっすぐ行けば街があるんで! ではでは頑張って魔王を倒してくださいね!】


「は? 待て待て待て! 魔王ってなんのことだ?」


【えー? それも知らないんですか? もー、まいったなぁ。あなたはこの世界の魔王を倒すために選ばれたんですよ。あなたが得た知識を元に神様が選定して下さったんです! ほら! 手を見て!】


 言われるがまま手を見ると、手のひらに文字が印字されていた。


【その中にあなたの知識を全て詰め込んだ一冊が入っています! うまく活用して下さいね! ちなみに今のままじゃ100年経っても魔王に勝てませんからね!】


 なんかちゃんと説明してくれると調子が狂うな。


 しかし、俺が念じると神の使いの言う通り手のひらから分厚い辞書が現れた。


「これを使うって……知識は頭に入ってんだけどな」


 なんとなく、ページを開き、読み上げてみる。


「ファイアーボール。あー、魔導書も読んだっけか」


 言った瞬間に片手から火の玉が真っすぐ飛んで行った。


「はへ?」


 ドーン! と衝撃音と共に前方に炎が舞う。


【あー! むやみにつかうと、魔力を切らしますよ? 魔法だけじゃなく色んなものを具現化できるので、言葉には気をつけて!】


「おいおい、マジかよ。こんなんアリなの?」


【アリです。魔法くらい普通の世界ですから。あ、そうそう魔王を倒す前に死んだら地獄に落ちますからね? 神様の期待に応えられなかった罰として。だから頑張ってくださいよー?】



「……は? 今なんて言った?」



 とんでもねー事をサラッと言いやがったぞ?



【ではでは! 異世界新生活ファイト―!!】



「待て待て待て! まだ聞きたい事が!!」


 プツリと音が切れる。


 俺は本を片手に、その場に立ち尽くした。



「魔王を、倒した後は……?」



 返事はない。神の使いはどこにも居ないようだ。



 やっぱりアイツ雑すぎ!!!!


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