『読書スキルで無双したら、美少女だらけの異世界だった件
浅井夏終
第1話 本に潰されて死ぬのは本望ではない!!
――――――――迂闊だった。
公共図書館司書の俺はこの道8年のベテランで、業務のほとんどがルーティン化していた。
その甘えが図書の神様の罰を呼び寄せたのだ。と思う事にする。しないとやってられない。
「きゃーきゃー!」
キャッキャと走り回って追いかけっこに興じる子ども二人。親はどこにいるのやら。
図書館では静かに!
と本来なら注意するべきなのだろうけど、変な親だったら逆に俺が注意されかねない。
この世で一番恐ろしいのはモンスターではなく、モンスターペアレンツなのだ。
筋道の通らない論理の破綻した持論を展開し、ありとあらゆる罵詈雑言をぶつけて、ごねる。
最低最悪の連中につかまったら最後。今日という一日が文字通り終わってしまう。
――――――――なので、放置!!
俺だけじゃなく、周りも見て見ぬふりだ。
「まったく……嫌な世の中になったなぁ。あー、本だけの世界に行きてーなぁ」
そうつぶやいた矢先のことだった。
「――――――――あぶない!」
突如ひびいた声に顔を向ける。
目に入ったのは本棚によじ登ってグラングラン揺らしている二人の子ども。
……そして、そのまま俺に向かって傾く本棚だった。
――――――――視界が本に埋め尽くされる。
「ちがっ! そーいう意味じゃ!!」
誰に向けて放ったのか。俺はその言葉を最後に、意識を失った。
―――――――――――――――。
「……ん? 助かった?」
うっすらと開けた目に映るのは散らばった本の山だった。
「案外、人間の体って頑丈なのな……って、え?」
ゆっくりと体を起こして見回した俺の目に飛び込んだ光景。
それは数秒前まで見ていたものとは全くの別物になっていた。
「ここ、どこですか!?」
俺が倒れていたのは冷たいリノリウムの床ではなく、ふかふかな真紅のカーペット。
視界は本で埋め尽くされているが、広い空間に棚は置かれていない。
あるのは円形の壁に貼り付けられた本棚。びっしりと詰め込まれた背表紙の列だけだった。
しかもその本棚の壁は見あげると遥か先まで伸びている。
……ここは円塔なのか?
「円の直径にして50メートルはありそうだな。天井は……測れそうもない」
立ち上がって棚に触れてみる。
「どれもこれも見たことが無い本だな……」
本を一冊抜き出すと、見たこともない文字で書かれたページが開いた。
……。
「――――なんだこれ! なんで読めるの俺!」
英語もろくに読めない俺が、スラスラと異国語を読んでいる。理解している。
顔をあげて、再度中を見まわす。
「階段は、一つか」
壁の本棚には等間隔に設置された回廊があり、そこへ上る階段がジグザグに伸びていた。
回廊の白と、本棚の木目。それ以外を彩るのは大小さまざまな本の背表紙の色。
「ここはどこなんだ……?」
【――――図書館ですよ! 神様のね!】
「は? なんだこれ? 誰だ?」
頭の中に直接言葉が響いてくる。
【私は図書の神様の使いです! あなたは招かれたんですよ! この神様の図書館に!】
「神様の図書館? なんだそれ?」
【全知全能を詰め込んだ図書館とでも言いましょうか。でも、残念ながらあなたは365日後に別の世界へ転送されます】
「話の切り替わりが急だな!」
つい、ツッコんでしまう。神様の使いがこんな雑な仕事しちゃダメだろう。
【あはは! 面白い方ですね! さー! 制限時間内に好きなだけ知識をつけてください! 読めば読んだ分だけ、あなたの力になります! あなたの望んだ本だけの世界! たっぷり楽しんでくださいね!】
じゃーねー! と軽い別れのあいさつで声はプツリと切れる。え、マジでなんなのコイツ?
「読めば読んだ分だけ力になるって言われてもなぁ……」
と言いつつも俺はいつもの癖で、つい読みふけってしまう。
「……はいはい。そーいう終わり方ね」
読み終わり、パタンと本を閉じる。読んだことない物語だが典型的なファンタジーの世界を描いたものだったので、すんなり読み終えてしまった。
「あれ?」
一瞬だった。
読み終えた本が光り輝いたかと思ったら、パァッと光の粒になって消え去った。
そして俺の脳裏にその本のタイトルが浮かび上がる。
「なるほど……力になるって、そーいう事ね」
俺は頭の中でその本を開くことが出来た。一文一文が抜けなくハッキリと脳裏に浮かぶ。
ページ飛ばしも検索も自由自在だ。
「こりゃいーや! 別の世界に転送されるって言ってたよな! これなら暇しねーで済みそうだし! 恐らくまんべんなく知識をつけておけばどんな世界に行っても困ることも少ないだろう!」
神の使いが言った事を自分なりに解釈して俺は両頬をたたく。
気合いを入れて、次の本を手に取った。
期限は1年。なんなら、この図書館の本全部頭に入れてやるぜ!!
……と、俺は豪語したのだが。
期限の1年を迎えるころになっても本棚の果てを見ることは叶わなかった……。
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