第3話 最初の街!!
山道は起伏も少なく、街までの距離も目視だとそんなに離れていないように思えたが。
「いかんせん、体力が削られている……」
1年間をずっと図書館で過ごしていたせいで、体力は風邪回復後くらいまで落ちていた。
まぁ、そんくらいで済んだのだからラッキーか。少しずつトレーニングしなきゃな。
ともあれ、前に進み続けた俺はなんとか街にたどり着いた。
「……うおー。ファンタジー」
感嘆のため息と共になんの面白みもない率直の感想が口から漏れる。
石造りの建物が並ぶ街並みは大いに賑わっていた。
歩行者や露店で商売をしている者。それら全て俺のいた世界の人間と変わらない。
みんな人の形はしている。ただ、人種には若干の差があった。
金髪に黒髪に茶、黄、青、赤。
目の色もさまざまだ。
でも、それは原宿にでも繰り出せばもっと奇抜な奴も居るし、何より無理やり感がなく自然なので、別に違和感はない。
耳の形がとんがってる種族もいるようだが、あまり気にならなかった。
それより驚いたのは馬車だ。
馬もいるが、トカゲ系の恐竜チックな生き物に荷車を引かせている者もいた。
恐らく、この世界には俺の知らない生物がわんさと居るのだろう。
往来は賑わっている。言語は理解できたので、きっと俺はもう喋ることが出来るはずだ。
もしかしたら図書館で言語の本を読んでいたのかもしれない。
良かった。物語だけでなく参考書や実用書、辞書までまんべんなく読んでおいて。
過去の俺、マジでファインプレー!
「最終目的は魔王討伐……しかし、目標が遠すぎるな。目先の目標として何をするべきか」
とりあえず思案しながら街を見て歩く。
片手にナレッジ(知識の本なので俺が勝手にそう命名した)を持ち、ページをめくりつつ自分の出来ることをどう生かすか考えながら。
――――その時だった。
「きゃー! やめてください! それだけは!」
賑わう往来で声が上がり、俺はナレッジから顔を上げた。
見ると、そこには円形の人だかりができていて、その中心で剣士風のやさぐれた男が今まさに母子に向かって剣を振り上げているところだった。
「しつけがなっとらんガキが! 俺が世の理(ことわり)を教えてくれるわ!」
うわー……だせぇセリフ。
俺がナレッジを閉じると、本は光の粒子になって消えた。
なるほど。出し入れ自由ってわけね。
新たな情報を得た俺は、そのまま人だかりをかきわけて中へと入った。
「よっと。ごめんよー。通してねーっと」
人混みをポンと抜け出ると、中心にいた剣士と母子が同時にこちらを向いた。
とりあえず会釈をしてみる。が、相手はまったく返してこなかった。
剣士は振り上げていた剣をこちらに向けて眉間にしわを寄せた。
「あん? なんだ貴様は?」
「なんだ。と言われてもなぁ」
俺は腕を組み、考える。
まぁ、なんだろうな。って言うかなんとなく飛びだしてしまったけど、良かったんだろうか?
まぁいいや。なんかこいつムカつくし。
たとえ、子どもが悪かったとしても剣で斬るのはあんまりだろう。
それがこの世界のルールだったとしても、俺のルールには反する。
俺はウンと頷いて、剣士をにらみ返した。
「とりあえず俺の名前はケイタ。司書だ」
「はぁ? シショ? なんだそりゃ?」
怪訝な顔に変わる騎士。司書知らんのか。だが、俺の名前には疑問がないらしい。
一応、日本人ぽさをなくすために名字は省いたのだが、功を奏したのか?
しかし、司書という役職はない世界かぁ。それとも別の名前なのか……。
――――まったく、情報がなさすぎるぜ!!
「まー、いいや。とにかくもうやめろ。見苦しいよお前」
俺はナレッジを再び具現化する。
すると、手品と勘違いしたのか人だかりから「おー!」と声があがった。
魔法のある世界だって言ってたのに、なんだこれ?
「貴様。魔導士か。って事は他国の使(・)者(・)だな!!」
剣士は一歩下がって剣を構えなおした。
いやいや、違うって! 言い間違いじゃねーから! 司書だよ! 使者じゃねーよ!
地面に膝をつく母子にチラっと目をやると、おびえた表情をこちらに向けていたので、とりあえず笑顔を返しておく。安心してくれ。俺にはとんでもなく強いファイアボールがある。
「とは言え、あの威力じゃ死んじまいそうだしなぁ。良い機会だ。他にも試してみるか」
俺はナレッジをめくり、武器の名を口にした。
「魔法剣 エスタード!!」
物語に出てきた武器の名の一つだ。
真っ黒いオーラが具現化し、俺の空いてるもう片方の手にそのまま漆黒の剣が握られた。
物質化も出来るのか。これも魔力消費してんのかな?
「貴様! どこに剣を隠し持っていた! このペテン師が!」
剣士はプルプルと震えながら叫ぶ。とんでもねー飛躍だなおい。剣を物質化したらペテン師かい。
こういう決めつけてくるやつって大概性格悪いんだよなー。嫌いなタイプだ。
とはいえ、俺の持つ剣から放たれる真っ黒いオーラは確かに禍々しい。知らないやつからしたら恐ろしくてたまらないだろう。
まぁ俺的にはイメージ通りなんだけどな。そんで確か、このオーラは自在に操れるんだよな。
「よし、巻き付け!」
俺は剣を一振り。すると、オーラが真っすぐ剣士に向かって空中を走っていった。
――――――――が。
「甘いわ!」
オーラはバッサリと切り落とされてしまう。っつーか切れんのかよ。流石は物質化。
「んー。じゃあ、周りを囲んでも無駄だろうしな。試してみるか」
俺はナレッジを消して剣を両手で持つ。
「いくぜ! 肉体強化!」
オーラが俺の体に吸収されて、力が奥からみなぎってくる。
こういう使い方もできるんだよな。オーラ、マジ便利。
「んじゃ、ちょっくら実験だ!」
言うや否や、俺は真っすぐ剣士に飛びかかる。
自分でも思ってもみないスピードで距離を詰めてしまったので、逆に驚いた。
でも、相手の方がもっと驚いていた。
「秘剣! 空蝉(うつせみ)!」
物語の主人公が会得した必殺技を使ってみる。
斜めに振り下ろされた漆黒の剣は躱されてしまったが、狙い通りだ。
俺はニヤリとつぶやく。
「――――第二の剣を感じ取れ」
だっせー。主人公の決め台詞だけど、ここだけはマジで興ざめだったんだよなぁ。
「ぐあぁああああああ!」
剣士が叫び、胸元から血が噴き出すと、真っ黒いオーラの剣筋が露になった。
どーいう原理かは知らんが、この必殺技はオーラの姿をかくし、するどく切り裂く第二の剣として相手に攻撃するものらしかった。
だから、まぁ要は二段階攻撃だな。
「しかし、予想以上だな。手加減も考えねーと殺しちまう可能性もある」
俺は剣を消して、ナレッジを出す。
ページを開き、地べたで暴れる剣士に向かって手のひらを向けた。
「ヒール!」
回復魔法。淡い光が剣士をつつみ、ななめに走る刀傷をキレイにふさいだ。
「いっちょあがり!」
パタンと閉じて、ナレッジを消すと後ろから何かが乗っかってきた。
「うわっとと!!」
「おにーちゃん! つおいね!」
よろめき、ふり返ると、さっきの子どもがこれでもかってくらいの笑顔で俺の背中に抱き着いていた。
「つよい。そーだなー。自分でもよくわかんないんだけど」
よっ! と俺はその小さな女の子を前に抱きかかえて母親と目を合わせた。
涙ぐみながら深々とお辞儀をされてしまい、俺は慌てて「顔をあげてください!」なんて言ってしまう。なんだよこのセリフ。まさか本気で言う日が来るなんて。
「ほんとうに、ほんとうにありがとうございます!」
「いえいえ! そんな! ただの通りすがりで、たまたま、その」
やっべー。こんな時、何て言ったら良いんだろう? 物語ごとに対応が違うから逆に迷うんだよなぁ。
「ねーねーおにーちゃん。おにーちゃんって冒険者なの?」
「んん? 冒険者?」
屈託のない笑みで聞いてくる女の子に俺は小首をかしげる。
「うん! ここのギルドに用があったんでしょ? 冒険者はおにーちゃんみたいな強い人しかなれないって私知ってるもん!」
ほう。と俺は女の子を下ろしてお母さんの元へ戻らせる。
再度頭を下げてくる母親に俺は手を挙げて応えた。
「そしたらー……」
俺がふり返ると、剣士は身を起こしてこちらをうかがっていた。
フン。と俺は笑い、ゆっくりと近づく。
「よーし! これも何かの縁だ! ちょっくら色々聞かせてもらおうかなぁ。なんせこっちは情報がなさすぎるもんでねぇ」
剣士は俺を恐怖の顔で見あげてくる。
俺はさっきの女の子ばりに屈託のない笑みを返す。
――――情報はもらえるだけもらわないとね!
俺はナレッジを出し、剣士に「ちょっと裏行こっか?」と告げた。
剣士は怯えた表情でコクコクとうなずいた。
言っておくが、あくまで俺は司書である!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます