突撃!三階からメイド服
「ごめんね雷花くん、忙しいのに……」
「いえ。暇でしたから」
机を退かした広い空間に椅子を置き、雷花が悠々自適と言った様子で腰掛ける。梅もその横に椅子を並べ、黒板を眺めやすい位置取りで着席した。
葉月のクラスに出たという、謎のオバケ。「何とかしてくれる同好会なんでしょ!?」と泣きつかれた梅は、致し方なく雷花と風雅を呼び出した。だが風雅は『悪い今抜け出せそうにねえ』と連絡を入れたのみで、姿を現すことはなかった。雷花は普通に来た。
眼前、プロジェクターとスマホを操作し、クラスメイトが動画を準備する。しばらくして画面が起動し、動画が表示された。三十分程度の、少し長めの動画だ。雷花はその分数を見遣り、顎に手を当てながら尋ねた。
「ふむ。三十分の動画ですか……撮った覚えのない部分はどこですか? そこだけ見たいのですが」
「全部です」
「はい?」
「だから、全部です」
「……なら仕方ありませんね……」
雷花が少し嫌そうな顔をして、渋々動画に目を向ける。相変わらず顔に出やすいなあ、と思いながら、梅もまたその動画に目を向けた。
動画は、手作り感満載のアクション映画だった。姫を怪物にさせられた騎士が、人間に戻す方法を探して旅するお話。最近話題の映画によく似た内容だ。スマホで撮影した動画のようだが、クオリティが高くよく出来ている。出演者はこのクラスの生徒で、文化祭ではよく見る動画のように思えた。撮った覚えがない、というのは無理な気もする。首を傾げる梅の隣で、雷花は遠慮なく言った。
「……ふむ。いかにも、学生が作った低クオリティな自主制作映画といった感じですね」
「はあ!?」
「ら、雷花くん……!」
「ああ、失礼。つい本音が。それより、この動画に出ているのはクラスメイトの皆様で相違ありませんか?」
「は、はい……これ、台本のコピーです。作った覚えないんですけど……」
演劇部に所属している生徒が、訝しみながらも台本のコピーを差し出してくる。雷花はノールックでそれを受け取り、パラパラと捲って目を通した。時間にしてわずか三十秒、本当に見ているのか怪しいくらいの速度で読み終わり、雷花が台本を閉じる。そしてメガネの位置を直しながら、少し不思議そうに言った。
「キャストの振り分けもしてあって、衣装もあって、動画もある……撮影した覚えがない、というのは些か無理筋な気が……」
「雷花! 梅!」
「あ、フカちゃん! 来てくれた……んだ……」
豪快に扉を開ける音と共に、聞き慣れた声が飛び込んでくる。風雅だ。梅は喜びと共に顔を上げ、直後フリーズした。
なぜならそこに立っていたのは、メイド服を着た風雅だったからだ。
その格好には流石の雷花も驚いたようで、目を丸くしながら風雅を見ている。それだけでなく、クラスメイトの誰もが奇怪なものを見るような目で風雅を見ていた。全員の視線を一気に浴び、風雅が顔を歪めながらズカズカと入ってくる。至近距離に寄ったメイド服の風雅に、雷花がかろうじて声を絞り出した。
「……風雅くん。君、女装趣味があったんですか?」
「ねえよ!! クラスの女子に無理やり着せられたんだ! あークソッ、着替えてくりゃ良かった……!」
「に、似合ってるよ、フカちゃん!」
「無理すんな、梅。それで、状況は?」
メイド服を着ているとは思えないほど勇ましく、風雅は平然と雷花に尋ねる。雷花は丸くなった目もそのままに、プロジェクターと風雅を交互に見て言った。
「一から説明するよりは、見せた方が早いのですが……」
「……ですが? なんだ?」
「一旦部室に行きましょう。これ以上、君の破廉恥な姿を見せびらかすわけにはいけませんから」
「破廉恥じゃねえし!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます