第三章 文化祭のゴースト

ゴーストのカメラ


 季節はまた一つ過ぎて、少し肌寒さを感じるようになってきた秋の初め。学校の中は、これまでにない盛り上がりを見せていた。

 文化祭。それは、青春を彩る定番である一大イベント。九月の頭にそのイベントを控えている海馬高校は、夏休み明けの憂鬱など知らない顔で盛り上がっていた。夏休みの間に準備を進めていたクラスは非常に多く、既に看板やフォトスポットやらが出来上がっている。梅のクラスも、例に漏れずそうだった。


「わあ〜……! この仕掛け、すごいね!」


「でしょ! 私たちで頑張って作ったんだから!」


 胸を張ってドヤ顔をする友人に、梅は惜しみない賛美を贈る。梅のクラスが文化祭で選んだ出し物はズバリ、お化け屋敷だった。

 文化祭の出し物は、学年内で中身が被ってはいけないという暗黙のルールがある。お化け屋敷は文化祭の定番ということもあって、一年生は熾烈な争いを繰り広げた。最終的に実行委員が何とか権利を勝ち取ったため、梅のクラスは見事お化け屋敷を作れる運びになったのだ。

 苦労して権利を勝ち取ったせいもあるだろう、クラスメイトの力の入り方は異常なほどだった。怖がらせる仕掛けや雰囲気を出すためのオブジェなど、作成された物は多岐に渡る。だがまだ授業があって飾り付けられない都合上、教室の後方のロッカーの上に所狭しと置かれていた。今にも落ちてきそうな危ういバランスで乗っかっている被り物たちに、梅は何度ヒヤヒヤさせられたか分からない。

 今は、放課後の準備タイムだ。いつもは想い出研究同好会の部室に行くのだが、風雅も雷花も文化祭の準備に追われて忙しいとのことで活動はおやすみだった。二人はどんな出し物をするのかなあ、と梅は思いを馳せる。すると、廊下から甲高い足音が聞こえてきた。


「梅ちゃん! 梅ちゃーん! いる!?」


「? ……あ、葉月ちゃん! どうしたの?」


「助けて! ウチのクラスにオバケが出たの!!」


「オバケ?」


 顔面蒼白で駆け込んできた隣のクラスの友人が、梅の手を強引に引っ張りながら言う。梅は首を傾げながらも、手を引かれるまま外に出た。

 葉月は委員会をきっかけに仲良くなった、別のクラスの友人だ。最近は文化祭の準備で忙しいとかでとんと顔を見ていなかった。確か、葉月のクラスの出し物は映画だった気がする。そこにオバケが出た。どういうことだろうか。梅は訳も分からないまま、葉月のクラスへと連れて行かれた。

 クラスの中は、異様なまでに静まり返っていた。ロッカーの上には文化祭で使うであろう造形物が並び、机を退かした広い空間で生徒たちが立ち尽くしている。生徒の視線の先、そこにあったのは黒板に映し出されたプロジェクターの画面だった。その画面では、自分たちで撮影したであろう、映画仕立ての映像が流れている。オバケはどこだろうか。


「葉月ちゃん。オバケってどこ?」


「それよ!」


「……え?」


「だから、それよ!」


 梅の腕を強く掴んだ葉月が、必死の形相で指を指す。その先にあったのはやはり、プロジェクターに映し出された映像で。


「撮った覚えのない映像があるの! オバケの仕業よ! 何とかしてよ、梅!!」

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