第2話 追放と仕返し

「えー、本日は皆様にご報告がございます!」

なんだ?すごくニマニマと気持ちの悪い笑みを向けて


「なんと! 私の婚約が決まりましたぁ!」


場内がざわめく。


「相手は……この方です!」


彼女【ヴィス・セイントクロア】がにこやかにパーティーの中央に立ち、華やかなドレスをひるがえす。姫のような笑顔で周囲の貴族たちを惹きつける一方、その瞳の奥には冷たい計算が光っていた。


彼女が指し示す方向にはルミナスの婚約者であり、第二王子兼聖騎士団長の【レグルス・ファウルン】だった。


「───は?」


ルミナスは思わず声を漏らした。


(……まじか、このクソ野郎)


心の中では罵倒しながらも、彼女の表情は聖女としての微笑みを崩さない。白銀の瞳だけが、静かに炎を燃やしている。


「聖女、いや偽聖女【ルミナス・フォルテリア】!貴様との婚約今この場で破棄する!そして貴様は国外追放だ!」



(……ああ、そう。はいはい。ぜひどうぞ)


内心で舌打ちしつつ、ルミナスは軽く肩をすくめた。


「構いませんよ。お幸せに」


驚く周囲の貴族たち。


「ル、ルミナス様!? レグルス様はあなたの──」


「いいの。ヴィスは私の大事な妹だし、レグルスも……まあ、彼なりに頑張ってるんでしょう」


そんな優しい言葉とは裏腹に、心の中では──


(死ねばいいのに、クソが。あー、もう最悪。虫けら同士で腐れ合ってろ)


ヴィスとレグレス──基馬鹿どもは勝ち誇ったように笑い、


だが、ルミナスはもう興味がない。


(どうせヴィスの捏造映像か何かで騙されてんだろうし……頭空っぽの騎士ゴミが)


そして、その夜──


「聖女ルミナス!いや、聖女を騙った偽物め!」


突然、兵士たちがルミナスの部屋に押し入ってきた。


「聖女ヴィスに対する虐待の罪で、本国より永久追放を命ずる!」


(……あ、はい。はいはい)


ルミナスは面倒くさそうにため息をつき、窓から外を見やった。


月明かりの下、街の外れには魔物のうごめく闇夜が広がっている。


「で、どっちから出ればいいの? 正門? 裏門?」


「……は?」


兵士たちが呆然とする中、ルミナスはすでに荷物をまとめ始めていた。


(追放とかむしろラッキー。もう聖女面して貴族の機嫌とらなくていいんだもん)


そう思うと、なんだか楽しくなってきた。


「──よし、隣国にでも行こうか」


ふと、彼女は窓から聖都を見下ろし、嗤った。


「まあ……その前に、ちょっとだけ『仕返し』してもいいよね?」


彼女の指先から、ほんのりと魔力が漏れる。


次の瞬間──


轟音と共に、王城の尖塔の一つが吹き飛んだ。


「え?」


「な……なにが!?」


慌てふためく兵士たちを尻目に、ルミナスは飄々と窓から飛び降りる。


「あーあ、やっちゃった。ついカッとなって」


ニヤリと笑い、彼女は闇夜の中へと消えていった。

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