133話 【こはねちゃんの保護者同伴な日常配信】

「うぷっ……げろ吐きそう」


「こはねさん!!!」


――がさっ。


「せんせぇは口元に近づけないで……余計吐きそう……」

「だからです!!!」


【草】

【げろげろの首謀者改めて先生、あなたって人は……】

【悲報・介護班にまーた裏切り者】

【ま、まあ、こはねちゃんさん自身が性癖は許容してるから……】

【懐が広いのか、それとも単純に断れないだけか……】

【こはねちゃん? 嫌なときはNOって言うのよ?】


がさがさ、がさがさ。


僕の口元で蠢く袋。

……隠さなくっても良いって言ったのは僕だけど、さすがにさぁ……。


「先生、だめですっ」


がさっ。


ビニールの独特な臭いと音が離れて行く感覚――とともに。


「わぷ」

「こはねちゃんさんは……私のですっ」


ひより先生のあったかくて柔らかくて子供の匂いのする感覚が、僕を包む。


【!?】

【!?】

【キマシ】

【ロリ同士……ふむ】


【こはねちゃんさんは精神男だぞ】


【でもロリっ子だよ?】


【ふぅ…… \50000】


【草】

【えぇ……】

【自分の性癖に正直過ぎる】


「……ぷは。やっぱ新しい人と対面するだけでお腹まで痛くなる……」


なんとかひより先生からのハグ――嬉しいけどやっぱり恥ずかしいし気まずいんだ――から脱出した僕は、非常に残念そうな顔をしている如月先生から胃薬をもらう。


さらさら。

ああ、この感覚が胃袋を溶かしていくんだ。


「で、ですが、毎日そこまでしなくても……」


「んくっ。毎日やっても1日10人ちょいが限度だからなぁ……せめてメンバーに入ってくれてる人だけでも挨拶くらいは……うげぇ、気持ち悪っ……も、もう今日はこの人でおしまいで……」


【こはねちゃんに気持ち悪いって言われた!!】

【興奮する】

【分かる】


【とうとう俺のコメントで吐き気を催してもらった……ふぅ……】

【あとはげろげろもしてもらって郵送してもらうだけだな!】


【ひぇっ】

【こはねちゃん?? 配信主はコメントを管理しなきゃダメよ??】

【モデレーターさんな保護者たち、もっとがんばってください】

【草】


【しかし健気すぎる】

【いくら、この前のお礼とは言ってもなぁ】

【メンバー特典であっても、わざわざ自分から苦行を……】


「――ずっとこのままじゃダメってのは、引きこもってときから思ってたから。どうせ一念発起するって決意なんて僕たちみたいなのは長続きしないし、ならせめて今だけでも……ね。気力が続くあいだで、1人でも多くのみんなにお礼、言いたいから」


【こはねちゃん……】

【ないた】

【いい子すぎる】

【\50000】

【\50000】

【こはねちゃんはね、気持ちで良いって言ってるよ  \500】

【推し活は自分が幸せな範囲内で  ありがとう  \1000】


あの日、僕はたくさんの人に助けられた。


人間には有名になった人を妬む本能があって、だから自然、たまたまバズってのを経験した結果としてごく一部の人たちには有名になったらしい以上、いつかは悪意に襲われるのは身構えていた。


けども、それはあまりにも突然――いや、悪意は虎視眈々と何日も何週間も前から獲物を狙っていて。


そこへ、あの日のお出かけ実況ってのが見つかったんだ。


お出かけ中の生配信にしたことを謝られもしたけども、それに良いよって言ったのは僕だし、そもそもとしてあんな人数が突撃してくるだなんて――普通はあり得ないもの。


予測不可能な天災ってのに近いものだから、って納得はしてもらったけども……今でも事あるごとに謝ってくるし、僕への罪悪感を覚えている雰囲気は伝わってくる。


でも。


あの日の僕は、最後だけしかがんばっていない。

子供のように怖がって震えていただけで、そんな僕をあと少しのところまで背中を押してくれたのは――。


「ほんと、すごかったよね。あのときのこはねちゃん」

「ん、私と同じ引きこもり生活してたはずなのにあの身体能力。今からでも体動かせばすごそう……私はどれだけがんばっても脚も遅いし運動神経ないから、あの動きとか正直マネできないし」


今でも筋肉痛とか痛めた左腕――肩とか、合わない靴でできた水ぶくれとかあちこちの打ち身はまだ治ったわけじゃない。


……でも、あれだけのことをしても大ケガをしなかったのはきっと、あの子のおかげなんだ。


【マジでそれな】

【危なすぎたけど、ビルの5階から1階までエスカレーターの空間使ってダイブするとか度胸も半端なかったよな】

【しかもみんなのために注意を引きつけながらっていうね】


【上の階層から下へ、ショートカットのために自ら飛び降りながら敵を屠る系幼女……うっ、頭が】


【あれはちょっとおかしい枠だから……】

【ただの引きこもり運動不足昼夜逆転幼女がそれと同等の動きしたのがやべーんだよ】

【それな】

【そのあとに結局2キロを成人男性数百から逃げ切る脚力とスタミナよ】


【あのときの書き込みでこはねちゃんが脚速かったって同級生?たちが  深くは聞かないことにしてるけど、たぶんあの子たち、こはねちゃんのことずっと応援してるんだと思うよ】


【ていうかものすごく重い病気とかいう話が】

【少なくとも今は完治、あるいは……】


「……その件につきましては追求はご遠慮くださればと。ただ、現時点でのこはねさんは健康な体だ……とだけ」


優花が、僕を軽く抱きしめて――守るようにしている。


……そうだよね、あのときだけは助けがあったからなんとかなったけども、普段は守られるしかない立場なんだから。


【りょ】

【まー、こはねちゃんの面接をクリアした介護班や準介護班、名誉介護班に投げ銭介護班には必要ない注意だけどね】

【草】

【ひっでぇ呼び方で草】


【だって介護班になるための身分の提示をできない腑抜け共に、投げ銭してこはねちゃんを養うことしかできない腰抜け共だろ?】


【腑抜け……?】

【腰抜けって言ったの取り消せよ……!】


【<URL>  介護班になるための100箇条】


【ひぇっ】

【戸籍謄本とか個人番号とか、普通の配信でメンバーになるのに必要ないはずのワードが並んでいる】

【やっぱ無理だわ……腰抜けでいいや……  \3000】

【草】

【やっぱり介護班とかいうの、ちょっと頭がおかしい……】

【ちょっとか?】


【介護班同士の……お互いに身バレしてるから交流があるらしいけど、その集会とか絶対みんなガンギマリの目つきしてそう】


【大丈夫大丈夫  こはねちゃんのかわいさについて語り合うだけの紳士淑女の会合だから】

【ほら、おいで  こはねちゃんを守護る楽しみを分かち合えるよ】


【先日の件で警護の必要性が再認識された  フィジカルに自信あるやつは好待遇だぞ】

【次の機会があったとしても最低100人は警護が必要って判明したからね】

【スーパーハッカーミナミちゃん主催のインテリジェンス部門も随時募集中です】

【炎上系たちの配信を遮断しつつ弱味を突きつける必要があるからね】


【草】

【実働部隊も情報部隊も怖すぎる】

【あんなことはもう起きないだろうとはいえ、こはねちゃんはレッサーパンダだからね……】

【そういや今日はレッサーパンダしないの?】


「いや、してほしいならするけど……特別なストレスとかかかってないし、演技でいいならするけどさぁ……」


僕は、両腕を上げてみる。


……肩が痛かった。


【じゃあいいや】

【それなら要らないわ】


【私はね、こはねちゃんが本気で幼児退行してギャン泣きしたり適度なマジ泣きしたりした結果のよわよわなレッサーパンダが好きなの  偽物は要らないの】


【草】

【草】


【精神的ショタっ子のレッサーパンダ!!】


【しっしっ】

【しつこいよー】

【こら、見ちゃダメ!】

【こはねちゃんの心が男だからって事実で増えやがって……】


【だからTSっ子だって】


【出た、裏切りTS連呼の】

【草】

【ちゃっかり腑抜け介護班になってて草】

【まぁ身分証は小学生にはまだ早いもんね】

【こはねちゃんから直々に年下扱いされてるもんな!】


ああ、今日もコメント欄はしっちゃかめっちゃか。


けど……こういうのも、楽しいんだ。


【それでさ、お詫びは何が良いかな  TSっ子こはねちゃん】


「? お詫び?」


ふと、どうしても目を離せない――TSのことを執拗に聞いてくる小学生っぽい雰囲気のコメント。


……この体のせいなのか、コメント欄の先の人柄とかがなんとなく分かるちょっとしたホラー状態な僕でも、この「彼」――あるいは「彼女」のことはまったく感じられない。


悪意は――ない。

それだけは、確か。


【うん】


【うっかりで魂が溶けかかって融合しかけたりしたし、うまく行かなかったら間違って来ていた同位体の同座標の肉体に乗り移る危険もあった】


【生と死、輪廻と因果が逆転する可能性があった】


【だから、本当にごめんなさい】


「?」


なんだろう……ぜんぜん分からなくってどう見ても自分の世界が強すぎる人の発言だけども、妙に納得できちゃう僕が居る。


【????】

【なんだこいつ】

【もしかして:電波ちゃん】

【あー】

【あー】


【こはねちゃん……? あんま構っちゃダメよ?】


「……コメント、一時的にでもBANを――」


「ううん、このままで」

「ですが」


「大丈夫。……えっとね」


かちかちと優花がマウスを触り始めた手を押さえながら、尋ねてみる。


「それは、どんな感じの?」


【どんなことでも  君が望むなら世界一の富豪にだってアイドルにだって、モテモテにだって国家元首にだってさせてあげられる  嫌いな相手が居たら1000人程度なら「存在しなかった」ことにもできるし、どんな苦痛でも与えられるよ】


【ふぇぇ……】

【電波こわい】

【こわいよー】

【なんてことだ、ただTSを連呼してTSの良さを語るだけじゃなかったのかこいつ……】

【こはねちゃんが構っちゃってるからね……】

【ま、まあ、保護者たちは何人も居るから……】


「……はるなちゃん。あのね……」

「どしたの? ……え? 発信源が特定できない……てかそれってできるもんなの……?」


後ろでなにやら物騒な会話が続くものの、僕はその存在の本気さを感じて驚いている。


彼、または彼女が言ってることは「本当にできること」なんだって、なぜかは分からないけども、僕の何かが理解しているから。


「………………………………」


なんでも――それは、つまり。


「……ごめん、みんな。みんなにはよく分からない話だとは思うけども――それは、たとえば――――――」



◆◆◆



今年の投稿はおしまい。

とうとう年をまたいでしまうこはねちゃんを、もう少しお楽しみください。


良いお年を、また来年もよろしくお願いします。



「新規こわい……けど、できたら↓の♥とか応援コメント、目次から★★★評価とフォローしてぇ……」

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TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~ あずももも @azmomomo

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