第1話 吹奏楽部

「どーも。宮城秋でーす。体験入部来ましたー」

「連れてきました、成瀬海でーす」

 海の言葉に思わず笑ってしまう。

 同じクラスの成瀬 海なるせ かいと部室に来た。海はチューバなんだそう。

「いらっしゃい。楽器はトランペットでよかった?」

 部長…江藤 実拍えとう みはく先輩が声をかけてくれる。

「はい。ありがとうございま…」

 ある人が目に映った。

 上履きの色は一年生。

「秋先輩?」

 こちらが声をかける前にあちらが口を開いた。そうだ、この子がいるんだ。前の中学の後輩。

百瀬 彩ももせ あや?」

 百瀬彩。ユーフォニアムパート。優しく、従順で、気遣える人である。

「お久しぶりです!秋先輩、この高校来たんですね。惑星わくせい高校じゃありませんでした?」

 周りがざわつき始める。

「わ、惑星高校?!偏差値クッソ高いとこじゃねえか!んでこんな中の中の慧惑すいせい高校に?」

 海が声をあげる。

「あー。まあついていけてたし成績も上位だったけど…こっちのがよくて」

「彩ちゃん。あ、ごめんね、遮っちゃって。今日休みでいいんだよね?」

 部長が彩ちゃんに声をかけた。

 目を見開いた。休み…?

「はい。病院だか何だかで。健康診断らしいですけど」

 病院…?

「あ、彩ちゃん、それって…」

「…はい。姉です」

 彩ちゃんは姉妹だ。

 彩ちゃんとその姉。姉のほうは同じトランペットパート。当時お世話になったので覚えている。健康診断でいないのかあ。

「会いたかったなあ」

「あ、明日は来ますから!」

 彩ちゃんが声を明るくして言った。

「うん、そうだね」

「先輩。ピアス多くないですか?てか、染めました?」

 流石彩ちゃん。

「あー。これね。一応黒に黒入れた。よくわかったね。ピアスはこれかわいいなーって入れてたらこの数に」

「だって、前より髪明るいですもん」

「…体験って何するの?」

「普通に吹くんじゃないですか?」

 転入なんて初めてだからわからないな。

「秋ちゃん、職員室行って顧問に挨拶してきな」

「はい」


夕日に染まる前の太陽の光が照らす廊下を歩いて職員室の扉をノックする。

「失礼します。吹奏楽部顧問……」

 バンッと激しく戸が開く。

「待ってたわ!いらっしゃい!彗星高校へ!顧問のはやしです!吹奏楽部に来てくれてありがとう!」

 激しく、驚くほどテンションの高い先生だ。嫌いではない。

「あ…いえ。来たかっただけなので」

「いーのよぉ!彩さんとは仲いいみたいだし。成瀬くんともよくやってるみたいだし。」

「大山春香はいまだにわかりませんけどね」

 あはは、とかるく流す。

「大山さんはわかればきっと仲良くなれるわ」

「誰が分からないって?」

 後ろから声がした。

「は、春香!」

「大山さん!ちょうどよかったわ。これ、音楽室まで」

 そういって出されたのはプリントの山。

「……一緒に行こうか?」

「いいえ、私一人でいいです」

 つめたああ!はあ?善意だけど!わからないなあ。この人。

「ついて行ってあげて」

 こそっと先生が言った。

「……はい」


「ひゃっ」

 春香が足を滑らせ、階段から落ちかける。

「うぉっ!」

 ドサッ!


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