エピローグ:聖獣牧場へようこそ!

 あれから、数年の月日が流れた。

 セレスティアとアレスが築いた辺境の牧場は、今や「聖獣牧場」として、国中にその名を知られるようになっていた。

 二人は結婚し、アレスは騎士団長の地位を信頼する副団長に託し、完全に牧場へと移り住んだ。彼はもう「氷の騎士団長」ではない。愛する妻と家族を守る、頼もしい夫であり、父親だ。

 そう、父親。二人の間には、セレスティアによく似た太陽のような笑顔と、アレス譲りの銀の髪を持つ、可愛らしい男の子が生まれていた。

 その子、ノアは、やはり両親の血を色濃く受け継いでいた。生まれながらにして聖獣たちに愛され、物心つく前からベビーフェンリルの背中に乗って牧場を駆け回り、ユニコーンの角を枕に昼寝をするのが日課だった。

「こら、ノア!グリフォンの羽根をむしっちゃダメよ!」

「ははは、元気があっていいじゃないか」

 セレスティアの優しい叱責と、アレスの朗らかな笑い声が、牧場に響く。

 彼らの牧場は、単なる観光地ではない。そこは、心に傷を負った人々が、聖獣と触れ合うことで癒やしを得られる、特別な場所となっていた。王都の喧騒に疲れた貴族や、戦いで心を痛めた騎士たちが、セレスティアの淹れるハーブティーと、もふもふの聖獣たちに癒やしを求めて、遠路はるばる訪れるようになっていた。

 遠く王都では、かつてセレスティアを追放したアラン王が、過去の過ちから多くを学び、民の声に耳を傾ける名君への道を歩み始めていたという。彼が時折、この牧場から取り寄せた薬草を大切にしていることを、セレスティアたちは知らない。

 ある晴れた日の午後。

 セレスティアは、夫と息子の姿を、縁側から微笑みながら眺めていた。アレスが、ノアを肩車し、フェンリルたちと一緒に駆けっこをしている。その周りを、ユニコーンやグリフォンが、楽しそうに見守っている。

 これ以上ないほどの、幸せな光景。

 追放されたあの日、絶望する代わりに希望を抱いて王都を旅立った自分を、心から褒めてあげたいと思った。

 あの決断があったからこそ、このかけがえのない楽園と、愛する家族を手にすることができたのだ。

「ママ!」

 息子が、小さな手を振って彼女を呼んでいる。

「なあに?」

 セレスティアが応えると、息子は満面の笑みで叫んだ。

「だーいすき!」

 その言葉に、セレスティアの胸は温かい幸福感で満たされる。隣に立ったアレスが、その肩を優しく抱き寄せた。

 辺境の小さな牧場から始まった幸せは、これからも温かく、優しく、世界に広がっていく。

 聖獣たちの楽園の物語は、永遠に続く幸福を予感させながら、穏やかな光の中で、静かに続いていくのだった。

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追放令嬢は辺境で聖獣牧場を開きたい!最強騎士団長に溺愛されてます 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi

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