極楽とんぼ、詰められる

「……なんなんだよ、あいつ」


 真珠が駆け去っていった自動ドアを、新見はぽかんと見ていた。


「おーい、正臣!」


 後ろから呼ばれて振り向くと、姉の友人、ハルコさんが手招きしていた。


「なんですか?」


「いいから、ちょっとこっちおいで」


 ベンチに連行される。


「で、さっきの、何?」


「え?」


「とぼけんなって。真珠ちゃん、あれ泣いてたろ」


 ……泣いてた? そうか?

 いやでも、俺、別に怒らせるようなこと言ったか?


「あんたたち、付き合いたてなんでしょ。正臣のアレはここじゃ見慣れた風景だけどさ。長年連れ添った夫婦じゃないんだから。ダメダメだよ、あんた」


 え?付き合いたて?


 新見は驚いた。周りの顔見知りまで寄ってきて、うんうんとうなずいている。


「いやいや、俺たち同級生で友達っすよ。付き合ってないです」


 すると、新見にあきれた視線が飛ぶ。


「ただの友達が、あんな顔しないでしょ。あんたと帰る時の真珠ちゃん、もう幸せダダ洩れ顔じゃん」


(え。???)




 ***



 新見は、ロッカールームでスマホを手に悩んでいた。


(なんて打てばいいんだ?)


 ハルコさんに叱られたけど、新見には今一つピンとこなかった。

 いつも通りだった気がするんだよな。……だよな?


 金曜日。今日は、あいつが食べたいって言ってた黄身の琥珀漬け作ってきたのにな。


 俺が他の女性にアドバイスしたのがダメ?

 でも、そんなの筬島がこのジム来てからずっとやってたじゃん。

 いや、わからん。ほんとさっぱりわからん。


 なにか他の理由じゃないのか?

 ……いや、ならあいつの事だからそれ言うだろ。言えないからあんな態度取ったんだわ……むむむ。



 ……幸せダダ洩れ顔?あいつそんな顔してたのか?


 よくわからん。けど、叱られてる理由はなんとなくわかった。


 つまり、俺と筬島は、周りから見たらそういう関係に見えるってことか。

 そんで筬島はそれを喜んでいた、これでたぶん合ってるな。


 新見は、今日の出来事を思い出す。参考に姉の本棚のティーンズラブ漫画も思い出してみて、今の状況をよくよく考えた。


 ―― 俺、今どこにいる? 筬島と今後どう付き合うべきなんだ?……


 ―― なーんだ。そうか。




 ***



 さっきまで、なんて送ればいいか分からなかった画面。


 よし、とにかく安否確認だ。


《大丈夫か? なんか怒らせちまった?》


 ──打ってはみたものの、指が止まる。


(いや、ちがうな……)


 消して打ち直す。


《筬島、大丈夫か?

「卵の琥珀漬けと豆腐の味噌漬け、また今度な。そうそう、月曜日に時間くれよ》


 ええい、これでいいわい!


 あとしおしお謝ってるぶさいく猫のスタンプも添付して、送信ボタンを押した。


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