第24話 虚ろな世界 その6


 昔から夕刻になると、寂しさを感じる。

 その日が楽したかったら、それは尚更だろう。


 赤い陽を眺めながら、後輩と並んで歩く。

 そんなオレたちの間に会話はない。

 けれど、不思議と気まずいとは思わない。

 本当に不思議だ。


「悩み、聞いてくれるか?」


 そんな雰囲気の中で、オレは唐突にそう言った。

 すると、後輩は途端に笑顔になる。

 そしてオレの顔を覗き込んで言った。


「仕方ない先輩ですね。できた後輩が聞いてあげます」


 ***


 オレは後輩に最近の悩みを話した。

 もちろん全てを話した訳ではない。

 あくまで妹との間にあった事を話しただけで、紗世ちゃんのことや紗世ちゃんに対する感情のことは伏せておく。

 本当のことは話さない。

 けれど、誠意を見せている風にしておく。

 我ながら、不誠実なことをしているとは思う。


「なるほど。前にプレゼントの事について聞いてきたのは、妹さんとの仲直りのためだったんですね」

「まぁな」

「けど今回の先輩の行動って、本当に先輩が考えたことですか?」

「?」


 どういうことだ?


「プレゼントでご機嫌取り、だなんて先輩らしくありませんから」

「……ずっと思ってたんだが、オレらしさってなんだよ」

「先輩らしさは先輩らしさです」


 こいつはオレのなにを知っているというのか。

 しかし後輩の言っている事は的をいているのも事実だ。贈り物をするのはオレの発想ではない。


 後輩はなにを察したのか、深掘りはしなかった。


「確かに誕生日を祝うのも大切なことだと思います。でももっと先にやる事があるんじゃないですか?」

「やること?」


 考えるが、一つも思いつかない。


「朝起きたら、妹さんにおはようって言ってます?」

「いや……」

「妹さんが帰ってきたらおかえりは?」

「言ってない……」


 後輩はため息をついた。


「人間関係ってそういうことの積み重ねなんですよ? それをプレゼント一つで済ませようとするなんて虫が良すぎます」

「……ぐっ」


 その通りだと思った。

 確かにオレは手順を省略しようとしていたのかもしれない。


「とりあえず妹さんと最低限のコミュニケーションをとるようにしてください。挨拶なんて会話の内に入らないって言っている人もいますけど、これも立派なコミュニケーションですから」

「……けど嫌がれるぞ。多分」

「挨拶をされて嫌がる人がいるなら、それは相手に問題があるだけですので、気にする必要はありません」

「……」


 言われてみれば、その通りだ。


 そのとき、後輩がくすりと笑った。


「ふふ、先輩って本当にこういうこと苦手ですよね」


 そんな笑い声を聞いて、オレは自分が恥ずかしくなる。


「……情けないよな」

「はい、とっても情けないです」

「……」


 ……こいつ、遠慮を知らないのか。


 すると、後輩は歩く速度を上げてオレの前に出た。


「だから、そんな情けない先輩のために、これからもあたしが相談にのってあげます」


 そして振り向きざまに小悪魔のようなイジワルな表情を浮かべて言った。


「感謝してくださいね」

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