第15話 Birthday Present for My Sister その6
雑貨屋のテナントで、オレと紗世ちゃんは、陳列された商品を見て回る。
「お兄さん見てください! くまさんのくぬいぐるみですよ! かわいいですね〜!」
「あ、あぁ、かわいいな……」
確かに愛くるしい顔をしている熊のぬいぐるみだ。
……しかし大きすぎる。オレの背丈を余裕で超えている。
だからか、可愛いというより、いかつさがどうしても勝ってしまう。
等身大サイズ。
お値段30万円。
阿保か。
それからオレたちはいろいろな店を回った。
しかし、いくつかプレゼントの候補となるものは見つけたが、即決に至るほどのものは未だ見つけられずにいる。
そしてオレたちは食器屋に入る。
陳列された商品を眺めていると、オレはとある商品が気になり、手に取った。
それは犬のイラストがプリントされているマグカップだ。
「可愛いワンちゃんですね!」
「あぁ」
「それに朝ちゃん、コーヒーが好きなのでいいかもしれません」
……そういえば、飲んでいるところをよく見かけるな。
「じゃあ、これにするか」
今日見た中でこのマグカップが一番ピンとくる。
なんとなくだが、この犬のデザインは妹が気に入りそうな気がする。
「……」
大丈夫。これで問題ないはずだ。
しかし、どうしても不安が拭えない。
「……これで喜んで、くれるだろうか」
オレは思わず弱音を吐露してしまう。
情けないのは分かっている。
けれど、自分から行動するのはどうしても、怖い。
「大丈夫です」
すると、紗世ちゃんは、オレが持っているマグカップに両手を添えて言う。
「きっと朝ちゃん喜んでくれますよ」
「……」
──どうしてだろうか。
紗世ちゃんの言葉を聞くと、勇気が湧いてくる。前に進む活力が溢れてくる。
「そう、だな」
***
ショッピングモールから出たときにはもう夕方になっていた。
ここまで付き合ってくれた紗世ちゃんには感謝しかない。
「今日はありがとう。お礼にこれ受け取ってくれないか」
オレは紙袋を紗世ちゃんに差し出した。
これは店を回っているときに買ったものだ。
受け取ると、紗世ちゃんは言う。
「開けてもいいですか?」
「あぁ」
紙袋から出てきたのは、熊のキーホルダー。
先ほど見た巨大な熊のぬいぐるみと同じデザインのものだ。
「流石にあのぬいぐるみは買えなかったから、キーホルダーになってしまったが……あ、いらなかった捨てもらっても──」
「いえ…」
紗世ちゃんは熊のキーホルダーをオレに見せて満面の笑顔で言った。
「とっても嬉しいです。ありがとうございます!」
「……っ」
なんて嬉しそうに貰ってくれる子なのだろうか。
妹にも、これくらい喜んでもらえたらいいな。
偏屈なオレだが、心からそう思った。
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