第14話 Birthday Present for My Sister その5


 休日。

 今日は紗世ちゃんとともに妹へのプレゼントを買いに、ショッピングモールまで出かける予定である。

 待ち合わせ場所は最寄りの駅の構内だ。

 午前10時に集合の約束をしている。


 しかしオレは家を出るのが少し早すぎたのか、約束の時間の15分前に着いてしまった。

 もっとも、早く着く分には何も問題はない。それにこう言う場面は男側が先に来ていた方が良いような気がする。


 そう思って駅の中に入ると、オレは眼を見開いた。


 集合の15分前と早めに着いてしまったにもかかわらず、そこには既に紗世ちゃんの姿があったからだ。


「あ、おはようございます。お兄さん!」


 明るい挨拶をしてくれる紗世ちゃん。普段から明るい子ではあるが、今日はより一層活気があるように見える。


「おはよう紗世ちゃん。……もしかして時間、間違えてたか?」

「い、いえ! わたしが早く着きすぎてしまっただけですから!」

「どのくらいに来たんだ?」

「一時かn──ついさっきです!」


 今、1時間前と言いかけなかったか? いや、ただの言い間違いか。普通に考えて、約束の1時間前にくる奴なんている訳がない。


 予定よりやや早いが、ちょうどいい時間に発車する便があるので、オレ達はそれに乗る。

 満員電車、とまでは言わないものの、休日ということもあり、比較的混んでいる。

 しかし運がいいことに空いている席を見つけた。しかも端の席である。


「紗世ちゃん座ってくれ」

「いえ! わたしは大丈夫です。お兄さんが座ってください」


 じゃあ遠慮なく。

 と座る男がヤバい奴という事くらいはオレでもわかる。

 しかし困った。

 これではせっかくの空いている席が無駄になってしまう。


 そんな事を考えて悩んでいると、紗世ちゃんがオレの服の裾を摘んだ。


「……あの、一緒に座りませんか?」

「え、」

 

 オレは空いている座席を見る。

 確かに詰めれば二人座れなくもないが、かなりの密着を強いられることになるだろう。


 しかしこれは妥協案だ。


「紗世ちゃんがいいなら、そうしようか」


 紗世ちゃんには一番端の席に座ってもらい、オレはその隣に座る。


 良い香りがする。

 加えて、左側、紗世ちゃんと接している方の腕や腰に温もりを感じる。

 そんな香りや温もりはどこか心地よさを感じるが、密着している都合上、どうしても恥ずかしさを感じてしまう。


 隣の紗世ちゃんに顔を向けると、ちょうど紗世ちゃんもこちらを向いていたため目が合う。

 紗世ちゃんは咄嗟に眼を逸らした。


 その頬は恥ずかしさからか、赤らんでいるように見えた。


 ***


 目的の駅で電車を降り、そこから徒歩数分、大型ショッピングモールに辿り着く。


 ここは多くのテナントが出店しているため、プレゼント選びにはうってつけな場所と言えるだろう。

 しかしそれだけにどこへ行けば良いかは悩みどころである。


 とりあえず、方針を決めて絞り込むべきだろう。


「朝の好きなものって何か知ってるか?」

「そうですね……」


 紗世ちゃんは少し考えてから答えた。


「犬、ですかね」


 ***


 そんなわけでオレ達はペットショップにやってきた。


 ……いや、違うだろ。


 犬はプレゼントにするには高すぎる。安くても一匹数十万はするぞ。学生の身分で安易に手を出せるものではない。そもそも、うちは母親が動物アレルギーなため、犬を飼う事はできないだろう。


「お兄さん! 見てください! ミニチュアダックスフンドですよ!」


 ……まぁ、紗世ちゃんが楽しんでいるならいいのだが。


 紗世ちゃんはショーケースに手をつけて眼を輝かせながら中の犬を見ていた。動物好きにはたまらない場所だろう。


 それにしても、紗世ちゃんと犬の組み合わせを見ていると、どうしても思い出してしまう。


「そういえば昔、犬に追いかけられたことがあったな」

「ふふ、ありましたね」

「結局オレが犬に噛まれて、紗世ちゃんは懐かれるっていうオチだったけどな」


 悲しきかな。動物まで人を選ぶのだ。


 すると、紗世ちゃんは俯いて言う。


「……あのときのお兄さん、わたしのこと守ってくれましたよね」

「全然守れてなかったけどな」

「でも、とてもカ、カッコよかったです!」


 紗世ちゃんはそんなお世辞を口にする。

 カッコいい? 

 そんな訳あるか。あのときのオレは犬に噛まれて、最終的には泣き喚いたのだ。


 ……紗世ちゃんは優しいな。


 それからオレ達はペットショップを後にして、雑貨屋に向かった。


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