第14話 貴族の舞踏会と社交界デビュー -1
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1. 舞踏会の招待状
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リリアの隠れ家は、相変わらず剣術書やアキナのアニメ雑誌が積まれた、少しだけ片付いた私室だった。そのテーブルの上に、一通の豪華な招待状が置かれている。
金色の刺繍と紋章で飾られたそれは、どう見ても王立魔法学院からのものだ。その優雅さが、招待状を手に眉をひそめているリリアの不機嫌な表情と、鮮やかな対比をなしていた。
「何よこれ……王立魔法学院からの舞踏会の招待状?」
「ふむ」
「私とエルミナが?迷惑だわ。こんな堅苦しい場所、行きたくないわよ……」
リリアは心底嫌そうな顔で、招待状を遠ざけるように揺らした。その隣で、エルミナが無表情に招待状の封蝋を指でなぞる。
「招待状……ですか。破壊する価値はなさそうですね」
「ええ……」
「とりあえず、行ってみますか」
「エルミナちゃん!?」
エルミナの予想外の返答に、リリアは目を丸くした。だが、フィーネは招待状を見た途端、目を輝かせ、リリアからひったくるように奪い取る。
「舞踏会ですって!? これは大チャンスじゃないですか!」
「何が?」
「王宮での舞踏会なんて、貴族相手に新たな商談ができる絶好の機会です!
リリア! これは絶対に行きましょう!」
フィーネの脳内では、すでに莫大な利益計算が始まっているようだった。アキナは、アニメで見た光景を思い出したのか、目を輝かせる。
「舞踏会か!アニメで見たぞ!
王子様と踊るんだろ!?」
「リリア、張り切ろうぜ!
俺、リリアのドレス姿、楽しみだぜ!」
「バッ……バカ言わないで!」
「え?」
「そんなはしたないことするわけないでしょう!
私は社交など苦手なのよ! それに、王子様なんて……!」
リリアは顔を真っ赤にして、アキナを睨みつけた。彼女にとって、舞踏会は苦痛以外の何物でもないらしい。
「いいえ、リリア!これは絶好のビジネスチャンスです!」
「エルザさんと相談して、最高の計画を立てましょう!」
フィーネは力強く断言した。その言葉に、リリアは深い溜め息をつくしかなかった。
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2. フィーネとエルザの密談、舞踏会での戦略
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冒険者ギルドの受付カウンター裏。フィーネは舞踏会用の商談リストと、貴族たちの名簿を広げ、エルザと密談していた。エルザは優雅に紅茶を飲みながら、フィーネの言葉を聞いている。二人の間には、腹黒いビジネスの匂いが充満していた。
「というわけで、舞踏会では貴族相手に新たな商談をまとめ、コネを広げたいんです!」
「ほう」
「特に、あのモルガン公爵夫人には私の新製品を、ヴァイス伯爵からは希少な鉱物の情報を、そしてリヒター男爵からは秘蔵の美術品を……ぐふふ、エルザさん、何かいい情報はありませんか?」
フィーネは前のめりになる。エルザは紅茶を一口飲むと、涼しい顔で答えた。
「ふふ、良いでしょう。王家の社交界で、私たちギルドの地位を向上させる絶好の機会ですわ」
「しかし、あなたたちのあの騒がしさは勘弁していただきたいものね。
特に、アリス様には……」
エルザの言葉に、フィーネの顔が引きつる。アリスがひとたび歌い出せば、どんな厳かな場でもカオスになることは、フィーネが一番よく知っていた。
「アリスさんには、会場の雰囲気を壊さないように、静かな曲だけ歌ってもらうよう厳命しますから!絶対に!……たぶん!」
「たぶん、ですって?」
「彼女のギャンブルの勝ち分で、今回のドレス代を……」
「そう、うまくいくかしら」
エルザは口元だけで笑った。
「期待していますわよ。あなたの努力が実を結ぶことをね」
「任せてください!今回は完璧な計画です!絶対に損はさせません!」
「ええ、楽しみにしていますわ。あなたの『完璧な計画』が、どこまで無事に進むのか」
エルザはそう言って、再び紅茶を一口飲む。フィーネは、その挑戦的な視線に、思わず胃を押さえた。
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3. 舞踏会への準備(ヒロインズ・ファッションチェック)
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フィーネの錬金工房兼私室は、舞踏会用のドレスと魔装具でぐちゃぐちゃになっていた。ヒロインたちがそれぞれドレスに着替えているが、一筋縄ではいかない。あちこちでトラブルが発生し、フィーネは指揮を執ろうと奮闘していた。
「みんな、準備はいいですか?
今日の舞踏会は、私たちのイメージアップがかかっているんですからね!」
「うん!」
「くれぐれも、みっともない真似はしないでくださいね!
特に、ドレスは絶対に汚さないでください!」
フィーネは必死に呼びかける。だが、セラは純白のローブの裾に、怪しげな魔装具のパーツを縫い付けていた。
「この魔装具なら、ドレスが魔力で輝くはずです!きっと注目されますよ!」
「イリス様、この魔装具の魔力効率は……」
「セラちゃん!それはやめてください!
変に光ったりしたらどうするんですか!ドレスが台無しになります!」
フィーネの悲鳴に、セラは目をパチクリさせた。イリスはローブに分厚い古文書を忍ばせようと悪戦苦闘し、ローブが不自然に膨らんでいる。
「このドレス、本の収納スペースがないわね。全く、実用性が伴わないわ。
せっかくの知識が発揮できないじゃない」
「イリス様!
そんなに本を持ち込まないでください!ドレスが破れます!」
リリアは慣れないドレス姿に不機嫌そうで、ドレスの裾を踏みそうになる。
「こんな動きにくい服、着てられないわ。
すぐにでも双剣を振るいたくなるわね……」
「だよな、リリア!」
アキナもドレスの裾を踏んづけながら、転びそうになっていた。
「うわっと!なんだこれ、動きづらっ!
これじゃあ剣も振れないじゃん!
やっぱり動きやすい服がいいな!
リリア、これそもそもどうやって着るんだ!?」
「私に聞かないで!」
ルナはコミュ障でドレスを選ぶのが苦手で、隅で小さくなっていた。手にはドレスのカタログが何冊も握られている。
「どれも……似合わない……気がします……このデザインは……記憶では……あまり……」
アリスはフィーネに無理やりドレスを着せられながら、あくびをしていた。
「あ〜、こんな窮屈なの嫌だなぁ〜。
でも、今日のステージ、ギャンブルの勝ち分で豪華にしようかな!
稼いだらすぐに使わないとね!」
「アリスさん!
ドレス代はギャンブルにつぎ込まないでください!」
「みんな、ちゃんと着替えてくださいーっ!」
フィーネの叫びが、散らかり放題の部屋に響き渡る。舞踏会はまだ始まってもいないのに、すでにフィーネの胃は限界だった。
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