第13話 幻の魔道具とダンジョン探索 -4

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10. 幻の魔道具の正体

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解除されたギミックの奥から現れたのは、美しい光を放つ「幻の生命の炉」だった。フィーネは期待に胸を膨らませて近づくが、イリスの解析結果は彼女の想像を大きく裏切ることになる。


「これが……幻の生命の炉……!

 さあ、どんなすごい機能が……! これなら高値で売れる……!」


フィーネは目を輝かせながら炉に駆け寄った。その手を触れると、炉から暖かい光が放たれる。


「解析完了。この炉は、非常に効率的に魔力を生成するが、その用途は……」

「用途は!?」


イリスの淡々とした言葉に、フィーネはごくりと唾を飲み込んだ。他のメンバーは、イリスの次の言葉を興味津々で待っている。


「暖炉ね。ただの高性能な暖炉だわ」


「……え?」

「……え?」

「……え?」

「……え?」

「……え?」

「……え?」



フィーネの顔から血の気が引いていく。呆然と立ち尽くすフィーネを他所に、他のメンバーはそれぞれの反応を見せる。


「魔力効率は素晴らしいが、それ以上でも以下でもない」

「すごいね!これで冬はあったかいぞ!」

「あはは、アキナは単純だな」

「ええ、まさに理想的な熱源です。研究のしがいがありますね!」


イリスが冷静に解説し、アキナが目を輝かせ、アリスが笑い、セラは暖炉を興味深そうに眺めている。


「はあああ!?暖炉!?これじゃあ、大儲けなんてできませんよ!」

「ただの暖炉をこんな大金で買う人なんていませんよ!私の計画がーっ!」


フィーネは絶叫した。その横で、セラは暖炉を分解しようと動き出す。


「暖炉……でも、こんなに美しい魔力生成器は見たことがありません!

 研究のしがいがあります!

 イリス様、分解しましょう!」

「だから分解はダメーっ!売るんです!売るんですよ!」

「だーめー!」


フィーネはセラを必死に引き止める。アキナは、どこか嬉しそうな顔で暖炉を見つめた。


「暖炉か!これでダンジョンの中でもあったかいご飯が作れるな!」

「あ、いいな、鍋!」

「よし、今夜は鍋だ!ルナ、何食べたい?」

「鍋……いい……です……」


ルナは小声で安堵の呟きを漏らした。リリアは腕を組み、呆れたようにフィーネを見ている。

「全く、こんなものに大金使って騒ぐなんて」


フィーネだけが絶望の淵に沈む中、他のメンバーはそれぞれに暖炉の「可能性」を見出し、どこか楽しげな空気を漂わせていた。



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11. ダンジョンからの脱出と新たな発見

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暖炉をずるずると引きずりながら、ヒロインたちはダンジョンから出てきた。フィーネは絶望の淵に沈んでいるが、セラは暖炉の仕組みに夢中になり、イリスは新たな研究テーマを見つけたことに満足しているようだった。


「やっと出られたわね。もう二度とこんなダンジョンには来たくないわ」

「道に迷うのも嫌だし、めちゃくちゃな戦いも疲れるわ」

「リリアさん、お疲れ様です」

「無事……脱出……できて……よかった……です……。

 ダンジョンの……記憶……怖かったです……」


ルナは安堵した様子で、小声で呟いた。


「イリス様!

 この暖炉の魔力循環システムを応用すれば、きっと新しい魔装具が作れます!」

「ほう!」

「分解して研究しましょう!無限の魔力で動く魔装具です!」

「ふむ。そうね、その可能性はゼロではないわ。

 あなたの奇妙な発想も、時には役に立つようだわね、セラ。

 後で私の部屋に来なさい。共同研究よ」

「はい!」


イリスの言葉に、セラの目がさらに輝く。


「まさか、こんな結果になるとは……大赤字……私の計画が……私の利益が……」


フィーネはずるずると暖炉を引きずりながら、半泣きで呟き続けた。


「フィーネさん、大丈夫か?でも、これで鍋ができるから、元気出せよな!」

「そんな問題じゃないですよ!」

「へへん、フィーネちゃん、元気出せって!

 暖炉は売れなくても、このダンジョンでの冒険は最高の歌になるぜ!」

「今夜はあたしのライブで盛り上がろうぜ!」


アリスがリュートをかき鳴らし、フィーネを励ます。フィーネの胃は、もう限界だった。



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12. ギルドでの収支報告とエルザの笑み

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冒険者ギルドの受付カウンター。


フィーネは、頭を抱えながら、ダンジョンの損害と暖炉の価値が記載された収支報告書をエルザに提出していた。


「エルザさん!信じられますか!?幻の魔道具が、ただの高性能暖炉でした!」

「ええ、聞いていますわ」

「ダンジョンの損害も大きいですし……計算したところ、まさかのトントンです!私の苦労が報われません!」


フィーネは机に突っ伏し、半泣きで訴える。エルザは報告書をちらりと見て、にこやかに微笑んだ。


「ふふふ……まあ、そうでしょうね」

「しかし、あなたたちのおかげで、セラ様が魔道具の新たな使い方を発見し、イリス様が新しい研究のヒントを得たのでしょう?」

「それは、まあ……」

「目に見える利益だけが全てではないわ、フィーネ。長期的な視点で見れば……大成功ですわよ」


エルザの言葉に、フィーネは顔を上げて食い下がった。


「長期的な視点!?こんな大赤字がですかーっ!」


「 そうよ。これは、無形資産の獲得ですわ。金銭では測れない価値があるのですから。」


「無形資産!?そんなもので私の胃の痛みが治るんですかーっ!?」


「ええ。それにしても、あなたたちの『騒動』は、時に思わぬ真実を暴き出す。

 これもまた、あなたの手腕、ということにしておきましょうか」


エルザはそう言って、口元だけで笑った。その瞳の奥には、すべてが計画通りに進んだことへの満足感が宿っている。


(暖炉か……。

 だが、この暖炉がきっかけで新たな魔装具が生まれる可能性もゼロではない。

 損して得取れ、ね。

 それに、この暖炉……冬には高値で売れるわね……)


エルザは心の中でそう呟いているようだった。ギルドの奥からは、アリスの歌声が響いてくる。


「〜♪幻の炉は暖炉だったけど〜、ポンコツ聖女の奇跡で〜、新たな魔装具が生まれるぞ〜!最強の絆で世界を護る物語は続く〜♪」


アリスは、今回の冒険をすでに伝説として美化し、高らかに歌い上げていた。フィーネは、その歌声を聞きながら、再び机に突っ伏すしかなかった。

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