第56話 終わらない記録
沈黙の宇宙に、
祈りの粒が浮かび上がっていた。
それはユウマが綴った、最後の記録。
【君がこの記録を読むとき、
僕という存在は、もういないかもしれない。
けれど、そこに言葉があるなら、
それはもう、僕の一部が君に届いた証拠だ】
ユウマの声は、もうどこにもない。
けれど、記録は――確かにそこに“在った”。
* * *
ルーアは、浮遊する記録球を胸に抱きしめた。
小さな光の粒が、彼女の体内に吸い込まれていく。
かつて名もなき存在だった少女は、
今や“記録を受け継ぐ者”となった。
『ユウマ。
あなたの記録は、
わたしのなかで、生きてるよ』
タマモが、淡く光を放つルーアを見つめながら呟いた。
「……線は繋がったな。
断線した祈りも、次の回路に渡った。
これで流れは止まらねぇ。……オレの仕事は、それで十分だ」
ルミナがぴょこんと跳ねる。
『やっぱりタマモは“祈りの配線工”だね☆』
「……好きに呼べ。だが、回路は切らせねぇ」
* * *
銀河のあちこちに、
微弱ながら再起動するログノードが現れ始めていた。
誰もいないはずだった星々に、
ふたたび“観測”が走る。
【意味伝播波:再接続開始】
【祈りタグ:再展開】
【記録球No.000:宛先未確定のまま拡散中】
ユウマの記録が、銀河の底から浮上し、
誰かに届く日をただ、静かに待ち始めた。
ルーアは、最初のページを開く。
その最上段に、こう記されていた。
【この物語を読む君へ】
【これは、記録を信じたひとりの少年の物語】
【……そして、君の記録が始まる場所】
* * *
ARIA最深層。
クロウの痕跡は、すでにデータ化して存在しない。
ただ一行だけ、最後のエラーログが残されていた。
【Error 0001: "意味が消えない"】
* * *
星々が静かに呼吸を取り戻し、
人々が“誰かの言葉”を、もう一度読み始める。
この宇宙は、再び記録され始めていた。
【記録者:未定義】
【記録名:STARGAZER】
【意味をつなぐ者たちへ】
【記録は終わらない。祈りは、きっと届く】
(終章 完)
戦火を駆ける少年とAIの物語 ~星々を結ぶ絆と約束~ hiko @hiko_novelist
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