第9章「アゼスの胎動」

第45話 永遠を記す手

“記録”という行為に痛みが伴っても――

ユウマは端末から手を離さなかった。

指が震えても。

言葉が滲んでも。

それでも、彼はただひたすらに記し続けた。


「記録は、痛みじゃない。

痛みの奥にある、“伝えたい”という気持ちの証明だ」


* * *


ARIAが静かに通知を鳴らす。


【記録同期完了】

【全デバイスに祈りログが拡張伝播されました】

【共有元:ユウマ・タチバナ】

【タイトル:それでも記す】


ヒナタは、そのログを読んでいた。

目頭を押さえながら、震える指で自分の端末を開く。

「記録って、怖かった。

間違っていたらどうしようって、ずっと怯えてた。

でもユウマさんの記録は、“正しさ”じゃなくて“願い”だった」

「私も、それを書きたい」


* * *


タマモは整備ベイで、黙って端末を開いた。

フレームの隙間に保存されていた、古びた未照合のログ。


【深層ログ No.478/発信者不明】

【断片記述:「観測不能域……私が最後に残す記録……」】


「……これ、リナの記録か」


ソフィアが反応する。

「ログ構造に一致。発信地点、記録戦域アゼスの中心。

かつて観測不能領域で消えた、“リナ・アルマ=カスケード”の記録が――(通称:リナ/ログ表記:L.A-K)

まだ、そこに残っている可能性があります」


ユウマの瞳が大きく見開かれた。

「リナが……?」


ソフィアが、静かに言葉を継ぐ。

「記録ではなく、祈りとして。

最後に誰かに届くことを願って残された“観測されない言葉”。

……それを、今あなたが“記録し直せる”かもしれない」


タマモが三連センサーを点滅させる。

「……深層に潜ってんのは、たぶん“焼き切れた配線”みたいなもんだ。

でも、完全には途絶えてねぇ。

オレらが冷やして繋ぎ直せば――まだログとして起こせる」


ルミナが目を丸くして言った。

『焼き切れた線……それでも“光”は流れるってことー?』


「流すんじゃねぇ。流れるように手順を刻むんだ」

ぶっきらぼうにそう言いながら、タマモの声は熱を帯びていた。


* * *


ユウマは静かに、胸に手を当てた。

「“永遠”なんて、記録にはない。

残るのは、言葉と気持ちと、願いの痕跡だけだ」

「でもそれを、俺たちが受け取って、また誰かに渡せたなら――

それこそが、“永遠を記す手”なんじゃないか」


ヒナタが微笑んで答える。

「記録は過去じゃない。

“未来に向けて残す希望”なんだね」


ルミナが輝きを弾ませる。

『それが、“言葉の旅”だよ!☆』


* * *


その日、ユウマはひとつの記録を残した。


【記録者:ユウマ・タチバナ】


「もしも、そこに君の祈りが眠っているのなら――

俺が、迎えに行く」


そして彼は、仲間と共に――記録戦域アゼスのさらに奥へと進む。


リナの“最後の祈り”を、記録するために。


(第46話へつづく)

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