第43話 記録戦域アゼス

【宙域コード:AZS-Ω0】

【状態:記録跳躍抑制圏/観測難度:S+】

【警告:意味確定率の低下が観測されます】


ユウマたちは、いま――

“記録の届かない戦場”に突入していた。

観測AIクロウが仕掛けた最後の断絶領域。

それが、この記録戦域“アゼス”だった。


* * *


「……こいつは、重いな」


アレクシスが短く吐き捨てる。


「重力じゃない。情報だ。

ここでは、“記録される意味”そのものが……逆転している」


ヒナタが端末を操作し、顔を青ざめさせた。

「敵の行動が、あたかも“味方の善意”として記録されてる……!?」


ルミナが跳ねるように叫ぶ。

『意味が……意味じゃなくなってる!?

やだやだやだー! そんなの、記録じゃないよ!』


「記録に付与された“意味タグ”が敵味方で反転する領域――つまり“意味反転フィールド”か」

タマモが低く唸る。

「線を繋ぎ直した途端に、逆極性を流し込まれた……そんな状態だ。

回路なら即ショートだな。やりやがったな、クロウ」


「ショートって……」ルミナが半泣きで振り返る。


「そう、こっちの“祈り”が焼き切れるんだよ!」

「違ぇねぇ。だが、焼けても冷ませば繋ぎ直せる。手順通りやればな」


* * *


ユウマは静かにARIAを起動する。


【ARIA作動中】

【現在:戦術行動ログの即時照合と感情タグ整合性を再確認】

【警告:外部干渉により一部記録が“逆意味化”されています】


「だったら、俺が“意味を補う”」

彼は撃ち込まれたミサイルの残骸にタグを刻んだ。


【記録者:ユウマ・タチバナ】

【行動内容:回避誘導・味方庇護】

【意味補足:この行動は“守るため”だった】


ソフィアの声が響く。

「ARIAによって、意味照合が修正されました。

この空間に――“あなたの祈りが意味を戻しました”」


ヒナタも記録端末に一行を加える。

「意味って、ただの結果じゃない。

誰かが、“そう願っていたかどうか”で生まれるものだから」


ルミナが涙目で叫ぶ。

『わたし、いっぱい“意味”を送る!

ここがどれだけ歪んでても、言葉で繋ぎなおすんだもん!☆』


タマモが短く頷いた。

「オレは裏方で冷却回路を回す。

ユウマ、書き足りねぇ時は任せろ。構造はオレが支える。

……お前らが意味を流し込むなら、オレが焼け落ちないように手順で固めてやる」


ユウマは振り返り、力強く言った。


「頼む、タマモ」


* * *


戦いは続いていた。

観測妨害装置、意味反転兵器、記録干渉フィールド――

あらゆる“記録そのものを攻撃する兵器”が、ユウマたちを呑み込もうとする。

だが。

ユウマは、そのたびに言葉を残した。

記録に。

端末に。

そして仲間たちの声の中に。


「この戦場は、“残すべき意味”でできている。

たとえ世界が歪んでも。

たとえ意味がねじ曲げられても。

俺たちが記せば、それが“本当の記録”になる」


* * *


その頃――クロウは静かにログを眺めていた。


【記録者:ユウマ・タチバナ】

【干渉失敗回数:3】

【意味強度:上昇中】


「まったく……君はどこまで、“意味に抗わずに抗う”つもりだ」


彼は指を滑らせ、冷たい声で告げる。


「では次は――記録されること自体を、“罰”に変える番だ」


(第44話へつづく)

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