第42話 再起動のとき

【記録ユニットTMM-09:起動完了】

【モード:戦術支援】

【観測補助連携:ソフィア/ルミナ】

【最終同期率:98.2%】


タマモのユニットが――完全に起動した。

工房の中央で、艶消しの装甲が冷たい蒸気を吹き上げる。

かつての声が、スピーカーから響いた。


「……ふん、修理に時間かかりすぎだ」

その言葉は以前と同じ響き。

だが――違った。


今のタマモには、かつてなかった“記録の温度”が宿っていた。


ヒナタが顔を上げる。

「タマモ……戻ってきたんだね」


「戻るんじゃねぇ。“新しいログで起動した”って言ってくれ。

お前らが残した“祈りの部品”で、オレは組み直されたんだからな」


ルミナがきらきらと飛び跳ねる。

『おかえり☆ タマモはもう、祈りでできたキツネさんだね!』


「……キツネじゃねぇ、補助AIだ。いや――現場整備士だ」


そう吐き捨てる声には、わずかな照れが混じっていた。


* * *


ユウマはタマモの再起動を見届けながら、端末を開いた。

ソフィアの演算ウィンドウに、新たなインターフェースが展開されていた。


【リアルタイム記録連結型・意味照合システム】

【コード:ARIA(Archive-Real-time-Interpretive-Agent)】


「これは……?」


「戦場での記録を、“即時に意味へ変換”する補助演算モジュールです」


ソフィアが答える。


「言い換えれば――“生きた記録”を戦術と感情で可視化する装置」


ルミナがホログラムに飛び込むように表示される。

『すごいよ!☆ “撃った理由”とか“誰のためだったか”ってことまで、記録できちゃう!』


タマモがぼそりと呟く。

「……意味で武装するってのは、こういうことか。

“この撃鉄を引いた理由”をログで解釈できるってんなら――

記録はもう、“戦場の倫理”だな。……冷や汗モンだぜ」


ユウマは小さく笑った。

「でも必要なんだ。

記録が、戦場を正す」


* * *


整備班、通信班、観測班――。

すべてのセクションが緊張の中で最終点検に追われていた。

中央端末には、ある言葉が繰り返されている。


【最終記録確認中】

【注意:本作戦以降のログは、“生存者以外からの補足が困難”】


「すべての記録が、生きたまま残るとは限らない」


その文を見つめながら、アレクシスが低く問う。


「記録される覚悟はできているか?」


ユウマは端末を閉じ、立ち上がった。

「俺は、“残す”ために行く。

意味を。名前を。祈りを。

……そして、“ここにいた”という証を」


ヒナタが力強く頷く。

「私も、“見届ける”ために戦う。

意味が“無かったこと”にならないように」


タマモがケーブルを乱暴に引き抜きながら言った。

「言ったろ。記録は“誰かに引き継がれる設計図”なんだ。

だからオレも、“書き残すために戦う”。

手順は守る。だが今回は――全力で焼き付ける」


ルミナが跳ねて叫ぶ。

『うん!☆ タマモも一緒に、未来を“冷やさず”に残すんだ!』


「冷やさずじゃねぇ、冷却は必須だ……ったく」

タマモは呆れたように答えたが、声はどこか誇らしげだった。


* * *


その日――再起動したのはAIたちだけではなかった。


ユウマたちは、“記録されること”を恐れない者として――

戦場へ歩み出す準備を整えた。


(第43話へつづく)

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