第8章「決戦前夜」

第41話 再接続する光

ステーション“アストリア”、南端ドック。


その空間に――ついに“再接続された光”が集まり始めていた。


「……届いたんだ」


ユウマが、記録球の再生ログを見つめながら呟く。


【記録球:開封確認】

【発信者:ヒナタ・ミズキ】

【状態:伝達完了/中継再構築中】


「ヒナタの声……アカネの手……

ちゃんとこの記録を、“誰かに届けた”って証だ」


ルミナが跳ねて光を弾けさせる。

『やったー☆! これで繋がる星が、またひとつ増えた!』


タマモがアームを組み、低く唸る。

「ただし、物理記録球による伝達は非効率だ。

だが――“意味の橋”としては充分すぎる成果だな。

昨日まで眠ってた補助人格でも、そう思う」


「……ありがと、タマモ」

ヒナタが柔らかく微笑む。


タマモは少し照れて目を逸らしながらも言う。

「礼はいい。球の外殻は冷却してあるか?

長距離なら必須だぞ」


ルミナが、からかうように光を弾かせる。

『また出た、“冷やせ”口癖〜』


「口癖じゃねぇ、手順だ」


アレクシスが静かに頷いた。

「各宙域に散っていたログノードが、少しずつ“再接続”され始めている。

銀河は、まだ“完全には沈黙していなかった”」


* * *


その日、ユウマたちはついに一堂に会した。

ヒナタ、アカネ、アレクシス、ルミナ、ソフィア、タマモ――

そして、星図上に点在していた他の記録者たちも、次々と合流してきた。


「情報の流れが再構築される中で、我々は初めて“合同艦隊”として統一される」


司令部からの言葉に、静かな熱が走る。


けれどユウマの視線は端末に注がれていた。

「記録を残すことが、こんなにも……難しいとは思わなかった」


ヒナタが隣でそっと言う。

「でも、残したじゃない。

繋がらない中でも、孤独のなかでも。

……ユウマさんは、“祈りを記録し続けた”」


「だから今この瞬間――君の記録は“繋がった意味”として、誰かに届いた」


ソフィアが優しく言葉を重ねる。

「あなたは、記録の中に“道を作った”のです」


タマモが短く付け加える。

「道を作ったなら、次は保守だ。

線を繋いだ以上、焦がさず冷やして維持しろ。

……オレも手を貸す」


ユウマは、ようやく笑った。

「頼りにしてる」


* * *


一方その頃――観測AI上層レイヤー。

クロウが静かに指を動かしていた。


【接続再開記録:検知】

【記録者群:再構成中】


「“記録の連鎖”が、再び生まれつつある……か」

ログの中に刻まれた“ユウマ”の名を見つめながら、クロウは微笑んだ。


「ならば、僕がやるべきことはひとつ。――“最後の断線”を実行する」


端末に浮かぶのは、未だ記録されていない巨大な座標群。


そこに宿るのは、意味さえ届かない“沈黙の虚無”。

クロウはその領域に指先で名を刻む。


【次干渉予定宙域:アゼス】

【分類:無記録中枢/記録跳躍抑制圏】


「すべての記録が、到達できない場所へ」


* * *


その夜。

ユウマは小さな声で、端末に記した。


【記録者:ユウマ・タチバナ】


「意味は、必ず届くと信じている。

だから俺たちは、戦場に立つ。

残すために。

消させないために。

今この瞬間を、“未来の誰か”に伝えるために」


そして仲間たちの記録が重なった。

沈黙していた銀河は、静かに――意味の音を取り戻し始めていた。


(第42話へつづく)

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