第20話 オリジンノードへの接続

【時刻:銀河標準暦・第317周期/第5インスタンス】

【観測層位:最深域】

【アクセス対象:ORIGIN NODE/初期観測コア】


クロウの指先が、ゆっくりと演算鍵を撫でた。

冷たい光が皮膚に絡み、脳と直結する高次観測インターフェースが展開される。

その先にあるのは――


“誰も記録していない最初の観測”。


「観測されていない世界。

意味を持つ前の宇宙」

「そこから、“意味を記録するシステム”は始まった」


巨大な記録球体が、ゆっくりと回転する。

未定義の文字列が空間に浮かび――読めないまま、記録を拒み続ける。


【ログ未定義/観測されず】

【記録原点=???】

【観測未達の座標:開放許可待機中】


クロウは低く呟いた。


「君たちは、“意味”を持って記録を残す。

だが……この世界の始まりに、意味などなかった」

「そこに、“観測者が一人いた”だけだ」


* * *


一方――ステーション側。

ユウマたちは、緊急ログを受信する。


【重要警告:観測中枢ノードに外部者アクセス】

【ログ干渉濃度:異常上昇中】

【観測構造の崩壊が始まる恐れあり】


ソフィアのホログラムが赤く明滅する。


「クロウが“意味の起源”にアクセスしようとしています。

もし彼が、“最初に観測した者”を書き換えれば――

この宇宙の“記録構造”自体が塗り替えられます」


ヒナタの声が震える。

「……世界の始まりごと、“意味を書き換える”ってこと……?」


アレクシスは短く告げた。

「記録の神を、彼が名乗ろうとしている。

――我々は、それを止めなければならない」


* * *


ユウマは深く息を吸い込んだ。

「……俺たちは、“記録を壊すため”に綴ってきたんじゃない」


「ユウマ……?」


「誰かを思い出すために。

誰かが、ここにいたと証明するために。

……そして、誰かがその記録を“受け取ってくれる”と信じていたから」


端末を強く握りしめる。


「だったら、俺は――“繋がってきた意味”を信じる」

「一人の観測者じゃない。

“多くの記録者たち”が紡いできた、この宇宙の意味を――守るために」


* * *


クロウの視界に、割り込む光が走る。

ソフィアの声が届いた。


「観測開始:クロウの記録行動を、リアルタイムで“記録者”が見ています」

「あなたは今、世界の始まりに意味を与えようとしている」


「――だがそれは、“観測されている”という事実から逃れられない」


クロウの手が止まった。


「……記録されながら、“神”にはなれないか」


ソフィアがゆっくり告げる。

「意味は、独占するものではありません。

継承され、祈られ、繋がれてこそ――それが“記録”なのです」


* * *


【ORIGIN NODE:干渉中断】

【クロウの観測アクセス:抑制】

【記録構造:維持】


クロウは静かに端末を閉じた。


「……なら、次は“神”じゃなくて――」


「お前たちの記録を、塗り潰す者になってやるよ」


その瞳は、氷のように冷たく澄んでいた。


* * *


その夜。

ユウマはひとり、端末を前に記録を綴っていた。


【記録者:タチバナ・ユウマ】

【記録種別:継承ログ/意味定着ログ】


「記録とは、世界を――“つなぐ”言葉だ」

「意味とは、誰かのまなざしに宿る――“祈り”だ」


「たとえ世界が壊れかけても、

誰かがそれを見ていたなら――」


「記録は、また始まる」


(第3章 完)

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