第4章「眠れる神々の記憶」
第21話 レリクス――記録なき星
雲を突き抜け、降下艇が惑星“レリクス”の大気圏に沈み込んでいく。
窓の外に広がるのは、まるで――
凍りついた時間の残骸だった。
大地は無音に沈み、空は濁りなく静止している。
風もなく、鳥もなく、波音もない。
そこには、生命の痕跡がなく――そして、記録すらなかった。
「……ここが、“レリクス”」
ユウマが端末を通じて観測ログを呼び出す。
だが、情報はほとんど存在しなかった。
【惑星レリクス:観測記録なし】
【植民地化・探索履歴:ゼロ】
【文明遺構:外部記録未照合】
アレクシスが低く言う。
「銀河系の記録ネットワークにおいて――ここは“空白域”だ」
「かつて存在していた痕跡すら、“記録されていない”」
ヒナタの声が、震える。
「……そんな星が、本当にあるなんて」
ルミナがペンダントからひょこっと飛び出し、問いかけた。
『記録されてないってことは……意味もなかったってこと?』
ユウマは、静かに首を振る。
「記録されなかったからこそ――」
「ここには、まだ“意味を見つける余地”が残ってる」
* * *
地表に降り立ったユウマたちは、文明の跡を示す構造物を発見した。
崩れた石柱。掠れた碑文。沈黙したアーカイブ装置。
それらすべてが――何も語らないという異常を放っていた。
「……これ、記録媒体としての構造はあります」
ソフィアが分析する。
「ですが、データが“消された”のではなく――
“初めから存在していなかった”形跡です」
「まるで、“意味という概念”を最初から無視していた文明」
「……意味を持つ前に滅んだ世界……?」
ヒナタが呟く。
アレクシスが首を横に振った。
「違う。これは――」
「“記録を拒絶された文明”だ」
「存在していたのに、誰にも記録されることを許されなかった。
名前も与えられず、意味も持てず、ただ……消えた」
* * *
ユウマは、その静けさの中で――
胸に芽生えた感情を、言葉に変えた。
「ここには、いた」
「誰かが、生きて、考えて、何かを遺そうとした」
「それを――俺たちが見つけなきゃならない」
「誰にも記録されなかったからこそ――」
「俺たちが、“初めて記録する者”にならなきゃいけないんだ」
ヒナタが力強くうなずき、ルミナが明るく輝いた。
『じゃあ、わたし……“名前”つけてもいい?』
「いいよ」
ユウマは微笑む。
「この遺跡に、“君が意味を与えた”ってことになるからな」
ルミナは小さな体を揺らして考え込み――ぱっと指を差した。
『“ソノス遺跡”ってどう?
ソフィアと、ノートと、ソウルを混ぜてみたの!』
ソフィアがわずかに微笑む。
「記録しました。“ソノス遺跡”。
――レリクスにて、記録者ルミナが名付けた最初の意味」
* * *
そのころ――別の地点。
厚い地層の下、崩れた構造の一角にクロウは足を踏み入れていた。
そこにあるのは――記録のない空間。
「……記録されなかった神々」
「“記録を拒まれた存在”を、もしこの手で記録できたなら――」
「君たちの“意味”を、僕が書き換えることもできる」
彼の眼前に横たわるのは、封じられた巨大な記録構造体。
その名は――
非観測神域
外から観測が成立しない領域――“非観測神域”だ。記録が意味にならない
そこに眠るものこそが――
かつて“記録すらされなかった存在”。
すなわち――
“眠れる神”と呼ばれた者たちだった。
(第22話へつづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます