第18話 偽ログ掃討作戦

【作戦名:ノーグレイス】

【目的:企業連邦圏内に流布された“偽ログ”の削除と観測空間の修復】

【指揮:アレクシス・ヴェイル中尉】

【記録者:タチバナ・ユウマ/ミズキ・ヒナタ】

【AI支援:ソフィア/ルミナ】


ユウマは、記録用スーツの装備を整え、起動ログを確認した。

ペンダント型ルミナが淡く光を帯び――“対干渉モード”に切り替わる。


「……ログ記録、干渉防壁、全機能起動」


ヒナタは、ソフィアと連携するタブレット型端末を胸に抱き、頷いた。

「観測視野、安定してる。ログ照合も、完璧」


アレクシスが短く言葉を投げる。

「問題は、“偽ログの起点”をどう見抜くかだ」

「記録されたように見えて――意味がないもの」

「意味を演出するために加工された記録」

「それらを見抜き、“削除する理由”を定義しなければならない」


* * *


都市地下のサブノード網。

そこには、観測されすぎて歪んだログの集合体が広がっていた。

風景は滲み、人物の顔も声も、曖昧に合成されている。


すべてが――「誰かが記録した“ように見えるだけ”の意味なき記録群」。


「……これが、“偽ログ群”か……」


ユウマは息を吐いた。

「残されてはいる。

 でも、誰にも意味を与えられていない」

「だから――何の価値もない」


アレクシスが頷く。

「意味を与えられなかった記録は――我々が責任を持って“削除”する」

「記録の……処刑だな」


ヒナタが、小さくつぶやいた。

「でも、怖い……」

「ほんの少しでも誰かの想いが混ざっていたら……」

「それを、私たちが消すことになるかもしれない……」


ソフィアの声が、落ち着きを与える。

「記録の真正性は、“意味の連鎖”で判断します」

「繋がりを持つものだけが――存在を継続できる」

「……じゃあ、“孤立した記録”は……?」

「無意味であれば――自然に消滅します」


そのとき――空間が急変した。


* * *


偽ログ群の中心核から、クロウ陣営の観測妨害装置が起動する。


【記録照合妨害:開始】

【対象:タチバナ・ユウマ/ミズキ・ヒナタ】

【過去ログ:無差別混入】

【錯誤記憶率:上昇中】


「……っ、頭が……!」


ユウマの記憶に、存在しないはずの映像が侵入してきた。

「姉は、生きていた」

「敵兵は、撃っていない」

「ヒナタと初めて出会ったのは、別の星だった」


「……やめろ……! そんな記録、俺は――してない……!」


ソフィアの声が鋭く響く。

「干渉ログを逆再生――意味構造を反転させます!」


ヒナタが震える指で端末を操作し、叫んだ。

「ユウマさん……! “本当の記録”を言って!」


ユウマは目を閉じ、胸の奥から絞り出す。


『姉は――俺を逃がして、死んだ

 俺は、敵兵を撃った。……忘れたくても、忘れない

 ヒナタと出会ったのは――漂流中のポッドの中だ』


その言葉に――偽の記録が、一つずつ崩れ落ちていく。


ソフィアが宣言する。

「“意味のある言葉”が、偽ログを打ち消していく……!」

「ユウマの“記録された記憶”は――誰にも上書きできない!」


* * *


ユウマが腕を振り下ろす。

ソフィアの支援ログが走り、構造を断ち切った。


【偽ログ削除:完了】

【照合障害:解除】

【観測空間の記録密度:安定】


ようやく、息が戻った。

ヒナタは小さく手を震わせながら、それでもログに文字を刻む。

「本当の記録は、誰にも消せない」

「意味を持った記録は、たとえ傷になっても――光になる」


その声に合わせ、ルミナが白い光をきらめかせた。


(第19話へつづく)

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