第3話 夏の匂い
真夏の教室は静けさを匂わした。鳴いている蝉は泣き止み、針の音だけが響く。
そして夏帆は声をあげた。
「はぁーーーーーー?」
「あんた馬鹿なの? 私はあんたのことが嫌いなんだよ?」
「分かっている。だけど俺は夏帆のことがすきなんだ」
譲ることはできない。この気持ちは絶対に譲れない。愛したんだ。好きになったんだ。だから、俺は彼女を惚れさせる。
「今なら変われる。夏帆! 手を取れ。その友達たちは友達ではないだろ? 本当の自分を捨てるなよ」
スッポトライトが集まっていく。溶けていく日を背にまといながら言葉を走らせていく。三カ月一緒に居て分かる。彼女――夏帆は良い人だ。あれが偽りなんて思えない。
英はそっと手を伸ばした。短くて長い小さな手を。
否定するように夏帆は英の手を叩く。
「ふざけるなよ。英雄気取りかよ。お前みたいなやつが嫌いなんだよ。目の前から消えろ。居なくなれ」
夏帆の言葉で湧き上がる群衆と笑み。逃げように夏帆は言葉を紡いでいく。
「お前なんか嫌いだ。大っ嫌いだ!」
そう言い終えると夏帆は鞄を持ち教室から出て行く。後に続くように友達たちも追う。ただ一人教室に残されてしまった英はゆっくりと顔を上げた。
怒るでもなく、悲しんでいるでもない。
英は笑みを零した。
「救うか」
かっこつけだろうか。意地を張っているだけなのだろうか。それとも、何か心当たりがあるのだろうか。
家に着いた夏帆はため息と同時に部屋に入った。
意味わかんない。何が好きだだよ。私は遊びなのに本気にしているの理解できないんだけど。あんなイケメンでもない男のことなんか好きなわけないじゃん。
周りの友達が言ってたから冗談で付き合っただけでだし。それに、あいつを利用しているだけであって本気じゃない。
それにだ、私に恥をかかせやがって。許せない、許しやるもんか。
私は英のことなんて……嫌いだ。
余裕のある表情を浮かべながら英は登校していた。いつも通りの足取りと変わり映えしない教室。ただ、今日はどこか違う雰囲気が匂っていた。
英は鞄を横にかけ、前を見つめた。
今日登校しておかしいと思ったことを3つ挙げようと思う。
1 教室内にいる生徒たちの視線。
2 いつも声をかけてくる友達からの無視と視線。
3 先ほどから全生徒がスマホを持ち何度も俺の顔を確認していること。
この3点から導き出される答えは、動画が出回っている。
そんな思考を巡らしていると英の前にある男が足を止めた。高校生とは思えないほど高身長であり、艶のかかった髪。
センター分けされた髪型。
ポケットに手を入れたままその男は立った。
「やっぱり! オメーはおもろいな!」
ぐしゃりと笑みを溢す。英の前に立った男はクラス1、いや学校で1番人気である――東阪工藤である。
この男、逆張りである @sink2525
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