14.能力を持つということ
「いや、オレっちはやめておくよ」
「オレも」
私と景くんによる「同調」の発動実験は成功でした。
次は道輝くんと蓮治くん……と思ったのですが、お二人は何故か乗り気ではないようです。
「ええ~? なんでさ~」
「景っち、考えてもみな? オレっちの『精神感応』や蓮治っちの『念動力』が強化されたら、どうなると思う?」
「……どうなるの?」
景くんの言葉に、道輝くんが「ガクッ」となりました。なんだかお笑いコンビみたいなやりとりです。
「翔っちの場合は、メガネをかけてても『透視』が発動して、景っちの場合はすっごく遠くまで『千里眼』が届いたんでショ? だったらさあ、オレっちと蓮治っちの場合……ちょっと怖いことにならない?」
そこまで言われて、ようやく私も気付きました。
「精神感応」は、他人の「心の声」が聞こえる力です。
普段は「今考えていること」くらいしか分からないそうですが、もし「強化」されて、もっと深い部分まで「聞こえて」しまったら……?
もしくは、近くにいる人たちだけではなく、もっと多くの人々の「心の声」が聞こえるようになってしまったら……?
正直、ぞっとしました。そんな情報量、頭がパンクしてしまうかもしれません。
「玲那っちは気付いたみたいだね。んで、『念動力』にいたってはさ、普通の状態でも激重な庭石持ち上げられるわけだから、それを強化したら……な?」
「……道輝の言う通りだ。普段はあれでも力をセーブしてるんだ。『強化』なんてされてみろ、お試しで物を動かそうとして、この屋敷ごと動かしでもしたら大惨事だ」
「ひ、ひぇ……」
「念動力」で屋敷が持ち上がってバラバラに崩壊する光景を想像して、思わず変な声が出てしまいました。
……それにしても、蓮治くんの能力は、あれでもセーブしていたんですね。本気を出したら、どのくらい凄いんでしょうか?
「ってことで、オレっちと蓮治っちはパスで。『共有』と『強化』のやり方は分かったんだし、まずはオッケーってことでいいじゃん? 『同調』とやらは、また今度、でさ」
「悪いな、玲那」
「……いえ。お二人がそう言うのでしたら、仕方がないです」
こうして、この日の実験はお開きとなってしまいました。
蓮治くんも道輝くんも、きっと超能力があることで大変な苦労をされてきたのでしょう。
「自分にも能力があったんだ!」と浮かれていた自分が、ちょっと恥ずかしいです……。
***
「玲那は少し居間に残ってくれるか?」
皆さんが居間から出ていく中、おじいちゃんが私を呼び止めました。
何か他のお話があるのでしょうか?
「なに、そう身構えなくてもいい。私も『同調』を試してみたくなってな」
「おじいちゃんも……?」
そう言えば、おじいちゃんも若い頃には能力が使えたんでした。
確か、「未来予知」だとか……?
「とっくに枯れた私の能力だ。今でも、予知夢めいたものも見ることもあるが、どうにもおぼろげなのだ」
「よちむ……?」
「予知夢とは、未来の光景を夢で見ることだよ」
「なるほど! 予知の夢だから予知夢ですか!」
「ああ。しかし、この予知夢はいつ見るか自分でも分からんのだ。内容もあやふやであるしな。だが、もしかすると『同調』を利用すれば、まともな予知ができるかもしれん。試してみてもいいかな?」
「もちろんです!」
元気よく返事をしながら、おじいちゃんの近くに座布団を敷きなおしてちょこんと座りました。
おじいちゃんは、そんな私の姿を嬉しそうに眺めると、私の肩に手を置きました。
「では、始めるぞ」
「はい!」
おじいちゃんの合図とともに、瞑想を始めます。
もう三回目なので、段々とコツが掴めてきました。
……そしてまた、数秒とも数時間ともつかない、不思議な時間が流れて。
「むっ」
不意におじいちゃんが声を上げました。何かを警戒するような、そんな声を。
次の瞬間――。
「きゃっ!?」
私は思わず悲鳴を上げました。
――「火」です。私の視界が、突然に大きな炎でいっぱいになったのです!
「お、おじいちゃん……これって!?」
「心を乱すな玲那。これが『未来予知』の見せる未来の光景だ」
「これが……未来?」
見えるのは一面の炎。そんなものが、私たちに待ち受ける未来だというのでしょうか?
「……やはり、情報が断片的だな。炎……恐らくは火事を示唆しているのだろうが、これでは場所がどこかも分からん」
「火事、ですか?」
「ああ。一面の炎はそのまま、近い将来に起こる火事を示しておる。若い頃ならば、大体ではあるが場所と時間も分かったのだが……見えんな」
おじいちゃんの手が肩から離れ、一面に広がる炎も見えなくなりました。
実際の炎だったわけでもないのに、何故か体が汗でびっしょりです。
「おじいちゃん、近い内にどこかで火事が起こるんですか?」
「ああ、それは間違いないだろうな。我々……いや、お前たちの近くで、確実に起こる」
喉が渇いたのか、おじいちゃんがお茶を一口すすります。
つられて私も、自分の席に置きっぱなしだったお湯のみに手を伸ばし、ごくりと一杯。うん、おいしいです。
「玲那」
「はい?」
「我々のこの能力は、ただ持って生まれただけのものではない。我々の能力は『使命』を持って生まれたのだ」
「使命……ですか?」
「世に災いが多く起こる時代には、決まって守司の能力者も多く生まれたそうだ。そして、陰ながらその災厄に立ち向かい、一族を、人々を守ってきたのだ」
そしておじいちゃんは語りました。
災い――すなわち自然災害や戦争、疫病、そういったものが起こる度に、守司の能力者が力を合わせて立ち向かったのだと。
「今、この時代に『同調』を持ったお前が生まれた。そのことにも、きっと意味があるはずだ。あの四人が能力を持って生まれたことにも、な」
「この力に意味があると?」
「ああ。だからな、玲那。もし先ほど見た炎のビジョンが示す災厄がお前の前に現れたのなら、どうかあの子たちと力を合わせて、立ち向かっておくれ――人々の未来のために」
あまりにも壮大過ぎるおじいちゃんからの頼みごとに、私は曖昧に頷くことしかできませんでした。
この時の私はまだ、「他人とは違う特別な能力」があることに浮かれていただけだったのです――。
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