13.相談しよう、そうしよう

『能力が発現した!?』

 その夜。夕食が終わってから私に発現した能力のことを皆さんに相談すると、きれいにハモった返事が返ってきました。

 おじいちゃんもお父さんもお母さんも、みんな同じタイミングで返事をしたので、なんだかコントみたいです。

 ――でも、私は真剣そのものです。全くふざけてはいません。ちょっと笑いそうになりましたが、こらえました。

「ふむ。玲那、詳しく話してみなさい」

 おじいちゃんに促され、私はここ数日で起こったことを、かいつまんで話していきました。

 翔くんと特訓していた時に、「透視」のような現象が起こったこと。

 朝の登校中に「誰かの心の声」が聞こえたこと。

 ……ちなみに、どんな声が聞こえたのかは、あえて言いませんでした。

「妙だな。同じ能力は一時代に一人にしか宿らない。しかも、一人につき一つの能力が原則だ。だが、玲那くんのケースでは、複数の能力が発現している」

「はい。なので、最初は気のせいかとも思ったんですが」

 翔くんの言葉にうなずきます。そもそも、その話を教えてくれたのも翔くんでした。

「おじい様、これは一体?」

「うむ……翔の言うことは確かに、守司家の超能力の大原則だ。だが、何事にも例外は存在する」

「と、言いますと?」

「能力の中には、他人の力を一時的に扱えるようになるものがあるのだ」

 場がザワっとなりました。どうやら、皆さん初耳だったようです。

「私が知っている能力は三つ。すなわち、『収奪』『複製』『同調』だ」

 そのまま、おじいちゃんは三つの能力について簡単に説明してくれました。


 まずは「収奪」。

 これは、他人の能力を一時的に奪うものらしいです。

 能力を奪われた人は、しばらくの間だけ自分の能力を使えなくなるのだとか。

 奪った能力は自由に使えますが、一度に一つの能力しか奪えません。

 他の能力を奪った場合、そちらの能力に上書きされてしまい、その時点で元々奪っていた方の能力は奪われていた人に戻るそうです。


 次に「複製」。

 これはそのままですね。他人の能力をコピーできるそうです。

 「収奪」と違って時間の制限はありませんし、コピーされた人も自分の能力を使い続けられます。

 でも、コピーした能力は元のものよりも数段弱いそうです。

 また、こちらの能力も一度に一つの能力しかコピーできません。


 そして最後に「同調」ですが――。

「『同調』には不明な点が多い。使い手が、守司家の歴史の中でもほとんどおらんのだ」

「どのような能力なのですか?」

「うむ。分かっている特徴は三つある。一つ目は『共有』、すなわち他人の能力を共有できること。二つ目は『強化』他人の能力を強化すること。そして三つ目は……」

「三つ目は?」

「能力名の由来となった『同調』、能力者同士を繋ぐことだ」

「能力者を……繋ぐ? ですか。どういうことでしょう」

「詳しくは分からん。ただ、過去に守司家に苦難が訪れた際、『同調』を持つ当主のもと、それを乗り切ったそうだ。極めて強力な能力だと伝わっている」

 なんだか、大変な能力のようです!

「それにしても、他人の能力を強化、か」

「なんだ。心当たりがあるのか? 翔よ」

「はい。実は、玲那くんが『透視』を発現した際、僕の能力もにわかに強くなったんです。というか、そうとしか思えない現象が起こりました」

 ――当時のことを思い出します。

 確か、あの時は、翔くんはメガネをかけたままだったのに「透視」が発動してしまったんでしたっけ?

 なるほど、受け取りようによっては確かに、能力が強化されたようにも思えます。

「なるほどな。そうすると、やはり玲那の能力は『同調』なのか……? しかし、発動条件もまだまだ不明だしな。ううむ……」

 おじいちゃんが「ううむ」とうなりながら、考え込んでしまいました。

 どうやら、私の能力が「同調」なのかどうか、どういう条件で発動するのか、測りかねているみたいです。

 ――と、その時。景くんが「はーい」と言いながら手を上げました。

「ねぇねぇ、翔くん。翔くんの能力が強化された時って、どんなことをしていたの?」

「ああ。玲那くんの瞑想の手伝いをしていたな」

「その時にさ、玲那ちゃんの体に手を触れてなかった?」

「……触れていたな。後ろから肩に手を置いていた」

「うわ、やらしー!」

「何故そうなる!?」

「ジョーダンだってば~。うん、じゃあ間違いないね。思うんだけど、『同調』の発動条件って、玲那ちゃんの体にボクらが触れること、なんじゃない?」

「その心は?」

「ほら、『精神感応』らしき現象が起こった時って、玲那ちゃんが転びそうになってボクら全員で支えた時じゃない。で、翔くんの時も肩に手を置いていたって言うし……どう?」

 思わず、私と翔くんは顔を見合わせました。何故、こんな簡単な共通点に気付かなかったのでしょう?

「そうと分かれば……実験しよう!」

 そう言って、景くんが「おー!」と手を上げました。

 つられて私も「おー!」と声を上げましたが、他の皆さんはやらなくて、ちょっとだけ恥ずかしかったです……。


   ***


「じゃあじゃあ、ボクからね! 玲那ちゃん、ハグしよう!」

「ハ、ハグですか!?」

 確かに、能力者が私の体に触れていることが発動条件ではないのか? というお話ですから、ハグでもいいのかもしれませんが……うう、恥ずかしいです。

「景、それはお前がハグしたいだけだろう。真面目にやれ!」

「ええ~? 蓮治くんだってハグしたいでしょ? やろうよ~」

「やらんわ! いいから、翔がやったみたいに肩に手を置け!」

「ちぇ~」

 口をとがらせながら、景くんが私の肩に手を置きました。

 何故か、正面から。そのせいで、かわいいお顔が近いです!

「それで、お互いにメーソーだっけ? ほらほら、玲那ちゃんも」

「は、はい!」

 少しだけ緊張しながら、私は「瞑想」を始めました。

 前に翔くんに教えてもらったように、目を薄く閉じて、深呼吸して、集中して――。

 そのまま、どのくらいが時間が経ったでしょうか。

 数秒? それとも、数時間? 気付けば私は、夜空の中にいました。

 ……いいえ、もっと正確に言えば、私の視界だけが夜空の中にいたのです!

 体の方は、今もきちんと座布団に座っている感触があります。

 これが……「千里眼」!

 眼下には街の灯り。見上げれば、キラキラ輝く星々。

 飛行機にでも乗らなければ見られない景色が、今は目の前にあります。

「玲那ちゃん、どう? 見えてる?」

「はい……しっかり、景くんの見ている景色が、私にも見えます」

 私たち二人の言葉に、周りの皆さんが「おおー!」と歓声を上げました。なんだか照れくさいです。

「それにしてもすごいな~。いつもなら、こんな空高くまで視界を飛ばせないのに。本当に能力が強化されてるや」

 どうやら、能力の「共有」だけではなく「強化」の方もバッチリのようです!


「じゃあ、能力を解除するね」

 景くんの手が肩から離れると、「千里眼」の景色は消え失せて、私自身の視界が戻ってきました。

 なんだかまだ気分がふわふわしています。不思議な感覚です。

「じゃあじゃあ、次は道輝くんか蓮治くんの番ね!」

 景くんもテンションが上がっているのか、いつもより元気な声です。

 でも――。

「いや、オレっちはやめておくよ」

「オレも」

 何故か、道輝くんと蓮治くんは乗り気ではないようでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る