3.守司本家
私たちが通されたのは、とっても広い畳の部屋でした。いったい何畳あるのか、ぱっと見ただけでは分からないくらいです。
奥には大きな床の間があって、その前におじいちゃんが座っていました。
「三人ともよく来たな。まあ、座りなさい」
おじいちゃんから少し離れた所に敷いてあった座布団に、お父さんたちとおずおずと座ります。
横目でお父さんとお母さんのことを見ると、額にびっしょりと汗をかいていました。緊張しているみたいです。
私はといえば、ふかふかですべすべな座布団の感触にびっくりしていました。きっとすごく高いものなんでしょう。
「さて……昨日も言った通り、お前たちの残りの借金はこちらでなんとかしよう」
「あ、ありがとうございます、お父さん!」
「その代わり、月一郎と絵理沙には、守司の持つ会社の一つで、下働きからやり直してもらう」
「ええっ!? お父さん、それはあんまりな……四十過ぎて下働きなんて」
「だまれ月一郎!」
お父さんが弱音を吐いた途端、おじいちゃんの雷が落ちました!
「ひぃ!?」
「曲がりなりにも、お前も一国一城の主だった男だろう? 守司の会社はどれも実力主義だ。『すぐに上に上がってやります』くらい言えんのか」
「う……」
おじいちゃんの言っていることは正論だったのか、お父さんはますます小さくなってしまいました。このままでは、お米つぶくらいになってしまいます。
「絵理沙もそれでいいな?」
「……仕方ありません。覚悟を決めて、誠心誠意がんばらせていただきます」
一方、お母さんはしっかりしていました。背筋をピンと伸ばして、真っ向からおじいちゃんに答えました。
今まで、おっとりとしたお母さんの姿しか知らなかったので、意外です。
「さて、玲那」
「ふぁ、はい!」
おじいちゃんから急に話を振られたので、かんでしまいました。次は私の番みたいです。
「玲那は比企谷学園の一年生だったな?」
「はい! この四月に入学したばかりです」
「友達はできたかな?」
「はい!」
「うむ、いい返事だ」
私がはきはきと答えたからか、おじいちゃんは満足げです。
「学費の心配はせんでいい。私がなんとかしよう。それに、あそこの理事長は親友だ。何かあれば、気軽に相談するといい」
「ありがとうございます、おじいちゃん」
――理事長というのは、確か学校の代表のことです。普通の会社だと社長さんにあたるんでしたか。
「とはいえ、勉学もスポーツもサボってはいかんぞ。この家に戻ってきた以上、お前は守司の跡取り候補なのだから」
「はい、おじいちゃん……え?」
元気よく返事をしてから、思わず首を傾げました。今、おじいちゃんは変なことを言いませんでしたか?
「あの、おじいちゃん。跡取り……というのは?」
「私の子どもは、月一郎――お前の父さんしかおらん。つまり、世が世なら玲那は守司家のただ一人の跡取り娘、ということになる」
「え、ええええ!?」
思わず大きな声が出てしまいました。だって、仕方ないじゃないですか?
こんなに大きな守司家の跡取りだなんて。聞くところによると、家が大きいだけじゃなくて、いくつもの会社も持っているそうですし。
見た目通りの大金持ちです。
「はは、元気がいいな。なに、跡取りの話は絶対というわけではない。だが、できれば玲那には、今から挙げる二つの道のどちらかを選んでもらいたい」
「二つの道……ですか?」
私の言葉に頷きながら、おじいちゃんが指を二本立てました。
「一つ目は、お前が守司家を継ぎ、婿を取り、ゆくゆくは次の跡取りとなる子をもうけてくれること」
「お、お婿さんと子どもですか!?」
「もちろん、お前はまだ若い。将来の話だ。もし、これと思う男がいれば婿として迎えてもいい、という話だ」
「い、いませんいません! そんな人いません!」
ぶんぶんぶんと首を振りながら否定します。きっと私の顔は真っ赤になっているでしょう。
「そうか……。では、二つ目だ。実はな、月一郎が家を出ていたために、私は一族の中から養子を迎えるつもりだったのだ」
養子というのは、よその家の子どもを自分の子どもにすることです。お父さんが家を継ぐ気がなかったので、自然な話に思えます。
もし養子の人がいれば、私にとっては、血の繋がらないおじさんかおばさん、ということになります。
「候補は今のところ四人。どれも将来有望な男子だ。……だが、玲那が戻ってきたのだから、養子の話は無しだ。その代わり――」
「その代わり?」
「玲那にはその四人の誰かを婿に迎えてもらいたい」
「ああ、なるほど。おじいちゃんの孫の私と結婚すれば、わざわざ養子になる必要がない……って、えええええええっ!?」
その日、一番大きな声が出てしまいました。
だって、自分で結婚相手を探すならまだしも、決められた四人の中から選べって。
「その四人も、この屋敷に共に住んでおる。これからは同居人、というわけだな。――四人を呼んできてくれ」
おじいちゃんが部屋の隅で控えていたお手伝いさんらしき女の人に言うと、お手伝いさんは静かにふすまを開けて部屋を出ていきました。
そして、ややあって――。
『失礼します』
四人の男の子がやってきました。
一人目は、私より少し年上くらいの、背の高いメガネの男の子。
二人目は、私と同い年くらいの、短髪で日焼けした元気そうな男の子。
三人目は、私よりかなり年下そうな小柄でかわいい顔をした男の子。
そして、四人目の男の子を見た瞬間、私は「あっ」と声を上げていました。
四人目の男の子は、なんと同じクラスの小動蓮治くんでした!
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