4.お婿さん候補

「さあ、四人とも。玲那に自己紹介を」

 おじいちゃんが促すと、まずは背の高いメガネの男の子から自己紹介を始めました。

「こんにちは、玲那くん。僕は二階堂翔にかいどう しょう。中学三年生だ。以後、よろしく」

 少し微笑みながら、二階堂くんがペコリと頭を下げました。つられて私もペコリ。

 二階堂くんは、小動くんに負けず劣らずのハンサムさんです。しかも、かなり大人っぽいクールな感じの。

「よっ! オレっちは桜木道輝さくらぎ みちてる! 中二だ! よろしくな!」

 次に自己紹介したのは、短髪の日焼けした男の子です。

 桜木くんは、見た目通りの元気な人みたいです。

「ボクは高見沢景たかみざわ けいだよ! 小六! よろしくね、玲那ちゃん」

 と、こちらは小柄でかわいい男の子。なんと、私の一歳下でした。もっと年下かとおもってました……。

 そして――。

「……自己紹介の必要ねぇだろ、これ」

 いかにも不機嫌そうといった感じでつぶやく小動くん。

 それはそうですよね、クラスメイトですし……。

「こら蓮治! きちんと自己紹介せんか!」

 すかさず、おじいちゃんの雷が落ちました! でもでも、小動くんは悪くありません。

「あの、おじいちゃん。実は小動くんと私は同じクラスなんです」

「何? それは本当か玲那? 蓮治、なぜ私に報告せん。玲那のことは、昔から知っておるだろう」

 ――え? おじいちゃん、また何かとんでもないことを言いませんでしたか?

 小動くんが私のことを昔から知っている?

「顔、よく覚えてなかったから……」

「ふむ。まあ、仕方あるまいな。お互いに幼い頃の話だしな。玲那も、この家に昔来た時のことは覚えておるまい?」

「え? あ、はい。おぼろげにしか」

「実はな、お前とこの四人とは、その時にも一度会っているのだよ」

「あ、なるほどです……」

 一つ、謎が解けたかもしれません。

 入学式の日、小動くんが私の顔をじっと見ていたのは、どこかで見覚えがあるように感じたから、かも?

「この四人は、玲那、お前と同じ比企谷学園に通っておる。誰が婿にふさわしいのか、あるいはふさわしくないのか。よく見極めてほしい。もちろん、お前に『これ』と思う男子が現れたのなら、そちらと比べてもらって構わん」

「あ、あはは……」

 どうやら、おじいちゃんの中では、私の将来が決まってしまっているみたいです。

 私が、この四人の誰かを選んで結婚して、跡取りになってもらうか。

 それとも、自分でお婿さんを見付けて、私自身が跡取りになるか。

(い、いきなりそんなこと言われても困ります)

 助けを求めようとお母さんの方を見ると、「やったわね玲那! みんなすごいイケメンさんよ!」と、むしろ喜んでいました。

 お父さんにいたっては、「玲那も結婚を考える歳か……」なんて、ちょっと現実逃避してしまっています。

 

 私の人生、これからどうなってしまうのでしょうか?


   ***


 そこからの一週間は、慌ただしく過ぎていきました。

 お父さんとお母さんは、借金返済や迷惑をかけた取引先への謝罪のために、毎日どこかへ出かけていきました。

 私は何事もなかったように学校へ。

 その傍ら、守司家のお手伝いさんたちにも手伝ってもらいながら、お引越しとお店の片付けをしました。

 生まれた時から一緒だった「ラーメン太陽」は、本当に無くなるのです。

 常連さんたちがいつも座っていた席も、近所のお兄さんたちがおいしそうにラーメンを食べていたカウンター席も、きれいに片付けられました。

 私たちの荷物も、次々に梱包されて業者さんのトラックで守司本家へと運ばれて行きます。

 やがて、たくさんの思い出を詰め込んだお店が、おうちが、すっかり空っぽになってしまいました。

「さあ、行くよ玲那」

「うん……」

 お父さんに促されて、お店を出ます。もう、ここには戻ってこれません。

(さよなら……)

 泣きそうになりながら、もう看板も外されたお店に別れを告げました。

 今まで本当にありがとう、私たちのお店。


   ***


 私たちは、守司本家のお屋敷、その一角に住むことになりました。

 しかも、お父さんお母さんの部屋と私の部屋は別々です。広いお屋敷なので、部屋には余裕があるそうです。

 お屋敷全体は和風ですが、私のお部屋はフローリングの敷かれた洋室でした。なんでも、最近になって改装された部屋の一つなんだとか。

 広さはなんと八畳。前のおうちの私の部屋は四畳半だったので、倍近い広さです。

 引っ越し荷物を全部持ち込んでも、まだ部屋が埋まりません。ちょっと落ち着かないかも。

 ちなみに、小動くんたちは私たちとは反対側の一角に、それぞれ住んでいるそうです。

 お風呂もお手洗いも私たちとは別の場所を使うそうなので、その点は少し安心です。

 でも、ご飯はお屋敷の居間で一緒に食べるのだとか。ちょっとだけ緊張します。

 広いお屋敷の中とはいえ、同年代の男の子と同じ屋根の下で暮らすのは、やっぱりドキドキです。

 しかも四人は、私の「お婿さん候補」なのですから……。


 ――けれど、私はまだ知らなかったのです。

 別の意味でドキドキするような大変な秘密が、守司家にあるということを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る