第10話『モカ、ヒーローになる。そして飼い主、炎上寸前』

 それは、突然だった。

 近所のコンビニで強盗事件が発生。

 犯人は刃物を持ち、店員を人質にしていた。

 通報が入り、警察が到着するまでの間――モカが動いた。


「……あれ?モカいない?」

 飼い主が振り返ると、モカはすでにコンビニの前に立っていた。

 第三形態のまま、目を金色に光らせて。


「おいおいおいおいおいおい!!お前、何してんの!?ヒーロー気取りか!?」

 モカは、静かに前足を踏み出した。

 その瞬間、空気が震え、犯人の手から刃物が落ちた。


「……な、なんだ……こいつ……目が……!」

 犯人はその場に崩れ落ち、店員は無事だった。

 モカは、何事もなかったかのように飼い主の元へ戻ってきた。


「解決した」

「いやいやいやいやいやいや!!お前、犬だよ!?犬が強盗止めたらニュースになるだろ!?」

 その予感は、的中した。

 翌日、SNSで「謎の犬が強盗を制圧」という動画がバズった。

 目撃者が撮影していたらしく、モカの姿がはっきり映っていた。


「……おい、これ完全にお前だよな?」

「あの耳の角度からして、間違いないな」

「耳の角度で自己認識すんな!!」


 テレビ局から取材依頼が来た。


 「モーニングショーに出演しませんか?」というメールが届いた。

 飼い主は頭を抱えた。


「……これ、前にも言ったよな。“動画送ったら取材来るかな?”って」

 モカは、静かに言った。


「あたしは、ただ守っただけだ。でも、“異質”が目立つと、世界は騒ぐ」

 その言葉通り、ネットでは賛否両論が巻き起こっていた。


「すごい!賢すぎる!」

「CGじゃないの?」

「あれ、犬じゃないだろ」

「気味悪い。飼い主は何者?」


 飼い主は、スマホを見ながらため息をついた。


「……俺、炎上してる」

 モカは、静かに言った。


「お前があたしを選んだように、世界も“選ぶ”。受け入れるか、拒絶するか――それは、時間が決める」

 飼い主は、モカの頭をそっと撫でた。


「……でも、俺はお前を選び続けるよ。炎上しても、バズっても、俺の犬だからな」

 モカは、目を細めた。


「……それが、あたしの“居場所”だ」

 その夜、飼い主はモカと並んで寝た。

 窓の外には、魔界の月がうっすらと浮かんでいた。

 “異質”は、確かに目立つ。

 でも、“絆”は、目立たなくても強い。

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