第11話『調査官来訪。そして飼い主、選択を迫られる』

 それは、静かな午後だった。

 飼い主が洗濯物を干していると、インターホンが鳴った。


「……またテレビ局か?」

 画面には、スーツ姿の男女が立っていた。

 名札には「特殊生物対策庁」と書かれていた。


「……庁って何!?省庁!?俺、国家レベルでマークされたの!?」

 玄関を開けると、二人は丁寧に名刺を差し出した。


「こんにちは。先日の“犬による強盗制圧”の件で、調査に参りました」

「いやいやいやいや!!犬って言ってるけど、もう犬じゃないんだよ!!」

 モカは、第三形態のままリビングでくつろいでいた。

 テレビでは料理番組が流れている。

 モカは、レシピに対して「その火力では魔界肉は焼けない」とつぶやいていた。

 調査官たちは、モカを見るなり固まった。


「……これは、犬…ですか?」

 飼い主は、深呼吸して答えた。


「見た目はチワワ。中身は悪魔と狼人間と犬の混血。でも、俺の犬です」

 調査官の一人が、静かに言った。


「この存在は、分類不能です。人間界においては“未登録種”であり、管理対象となります」

「管理って何!?檻に入れるの!?研究所送り!?俺の犬だぞ!?」

 モカは、ゆっくりと立ち上がった。

 その目は、静かに光っていた。


「あたしは、飼い主の元にいる。それが、あたしの選択だ」

 調査官は、少し黙った後、言った。


「……では、飼い主様に“保護責任者”としての契約を提案します。モカ様の存在を守る代わりに、監視と報告義務が発生します」

 飼い主は、契約書を見つめた。

 そこには、細かい条項が並び、「違反時は拘束措置」と書かれていた。


「……これ、俺が間違えたら、モカが連れて行かれるってことだよな?」

「はい。ですが、守る意思があるなら、契約は可能です」

 飼い主は、モカを見た。

 モカは、何も言わずに頷いた。


「……俺、やるよ。お前がどんな姿でも、俺が守る。それが、飼い主ってもんだろ」

 契約書に署名した瞬間、空気が変わった。

 モカの体から、微かな光が放たれた。


「……絆が、強化されたようですね」

 調査官は、静かに立ち上がった。


「では、今後は定期的に訪問させていただきます。モカ様の存在が、世界にとって“脅威”ではなく“希望”であることを願っています」

 飼い主は、深く頷いた。


「……俺の犬は、希望だよ。ちょっと変わってるけどな」

 モカは、ソファに戻りながらつぶやいた。


「希望か……悪くないな」

 その夜、飼い主は契約書を眺めながら、モカに言った。


「なあ、モカ。お前、世界を変えるかもな」

 モカは、目を細めた。


「あたしは、ただ“居場所”を守りたいだけだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る