第7話 ホテルで越えた禁断の一線

閉店後、店内の灯りを落とすと、一日の熱がゆっくりと沈んでいった。


外は風が少し強く、銀杏並木の葉がざわめいている。

街灯の下で金色の葉がひらりと舞い、その向こうにネオンライトの光が滲んでいた。

遠くでタクシーのブレーキ音が短く響き、夜の街が少しだけ息を潜める。


「送るよ」

繁和の声が、まだ温もりを残したカウンターの奥から届く。

その声音だけで、胸の奥がじんわりと熱を帯びた。


タクシーに乗り込むと、外の冷気が切り離され、車内の暖かさが一気に広がる。

繁和は薄手のジャケット姿で、襟元にはまだ外気の冷たさが残っていた。

窓の外では、夜風に煽られた銀杏の葉が、街灯に照らされながら流れていく。


「……この前の約束、覚えてます?」

繁和の視線がわずかに揺れた。

「……続き、か」

頷きも答えもなく、私はドライバーに告げた。


「ホテル街までお願いします」

その瞬間、彼の瞳にかすかなためらいと、欲望を隠しきれない光が同時に灯った。


部屋に入ると、暖房のぬくもりと静けさが身体を包み込む。

ジャケットを脱ぎ、振り返ると、彼がまっすぐこちらを見つめていた。

その目にためらいはなく、私も一歩近づく。


唇が触れた瞬間、外の冷たさが一気にとけていく。

キスはすぐに深くなり、舌が絡まるたび、背中に彼の手が回る。

ブラウスもスカートも、次々と床に落ちていった。

指が肌をなぞるたび、熱がじわじわと広がる。


「……触れたい」

低い囁きが耳を震わせ、ブラのホックが外れた瞬間、胸が解き放たれる。

掌がその形を確かめるように包み込み、指先が尖りを撫でるたび、息が浅くなる。

ベッドに押し倒され、背中が柔らかいシーツに沈む。

太腿を割るように腰が入り込み、布越しに確かな硬さが押し当てられた。

摩擦だけで、声が漏れる。


下着を脱がされると、ひやりとした空気が一瞬触れ、その直後に彼の熱が差し込んできた。

深く、ゆっくり──そして急に速く。

動くたび、身体の奥が震え、シーツを握る手に力がこもる。


「……貴代美……」

名前を呼ばれるたび、理性がほぐれ、心の中の防波堤が崩れていく。

腰を合わせ、彼の動きに応えるたび、快感が波のように押し寄せた。

最後は、互いの息が絡まり合うほどに近づき、同時に高みに達する。


全身の力が抜け、汗を帯びた身体がベッドに沈む。

外では、秋風が窓を揺らしていた。

天井を見上げながら、胸の奥でそっと呟く。


(もう……戻れない。

この夜が、私を決定的に変えた)

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